ANAファーストクラスの日本酒をつくる杜氏・農口尚彦さんが人間国宝に答申|9年提供の農口尚彦研究所は2027年度も継続。2026年の提供クラスと時期を1枚の表で整理【2026年10月16日発表】

雪の日の農口尚彦研究所の外観(石川県小松市)

2026年10月16日、文化審議会が杜氏の農口尚彦(のぐち・なおひこ)さんを人間国宝(重要無形文化財保持者)に認定するよう文部科学大臣に答申しました。同じ日、ANAがひとつの発表を出しています。農口さんが杜氏をつとめる農口尚彦研究所(石川県小松市)の日本酒は、2017年のファーストビンテージ以来9年間、ANAの機内とラウンジで提供されてきたものです。ANAは2027年度もこの日本酒を提供しつづけると決めました。

国際線のファーストクラスやビジネスクラスで、和食の機内食に添えられる日本酒。その造り手が人間国宝になる。この記事では、答申の中身、ANAとの9年間の関係、2026年はどのクラスで、いつ、どの銘柄が出ているのか、そして2027年度の継続までを整理します。

ANAボーイング777-300ERの国際線ファーストクラスの客室
ANAボーイング777-300ERの国際線ファーストクラス。農口尚彦研究所の日本酒はこのクラスを中心に提供されてきた(写真:Wikimedia Commons / 衛兵隊衛士 / CC BY-SA 3.0)

答申されたのは「吟醸造り」の保持者としての認定

今回の答申は、重要無形文化財に新しく「吟醸造り」という酒の製法を指定し、その保持者として農口尚彦さんを認定するというものです。食や花の分野、いわゆる生活文化の分野から人間国宝が出るのは今回がはじめてで、同時に京料理の料理人、華道の家元もあわせて答申されました。杜氏としての認定も初です。

農口さんは1932年生まれの93歳。杜氏歴は60年をこえます。吟醸造りのわざを競う全国新酒鑑評会では、金賞を通算26回とっています。1980年代以降の吟醸酒ブームを引っぱった一人として、酒の世界では「酒造りの神様」と呼ばれてきました。いまは石川県小松市の農口尚彦研究所で杜氏をつとめています。

答申はあくまで答申で、正式な認定は文部科学大臣の官報告示を待つことになります。ただ、文化審議会の答申がくつがえることは通常ありません。認定される見通し、という書きかたがいちばん正確です。

ANAと農口尚彦研究所の9年。2017年のファーストビンテージから

ANAの発表でわたしが目をとめたのは、「9年間」という数字です。農口尚彦研究所が設立されたのは2017年。ANAと農口さんはその年に出会い、研究所が最初に醸した日本酒(ファーストビンテージ)から、機内と国内のラウンジで提供をはじめました。

航空会社の機内酒は、ふつう1年ごとに入れ替わります。ANAも毎年3月に日本酒のラインナップを刷新していて、年によっては30銘柄から60銘柄が選ばれます。そのなかで、設立の年から9年つづけて選ばれつづけている蔵は、わたしの知るかぎり農口尚彦研究所だけです。ひとつの蔵と航空会社がここまで長くつきあう例は、日本の航空会社ではほかに思いあたりません。

ANAの平澤寿一社長は発表のなかで、「長年にわたり、ANAの機内やラウンジを通じて世界中のお客様へ日本の至高の味わいをご提供できたことは、私たちの大きな誇りです」とコメントしています。

石川県小松市にある農口尚彦研究所の建物
石川県小松市の農口尚彦研究所。2017年の設立の年からANAとの関係がつづいている(写真:Wikimedia Commons / ブラッドノック / CC BY 2.0)

2026年に飲めるクラスと時期と銘柄

ANAが発表に添えた2026年(2026年3月から2027年2月)の提供予定を、1枚の表にまとめます。提供期間ごとに、クラスと銘柄が変わります。乗る時期と席によって、出会える農口の酒がちがうということです。

提供期間 提供場所 銘柄
2026年3月〜5月 国際線ファーストクラス 純米大吟醸 無濾過原酒
国際線ビジネスクラス 山廃美山錦 無濾過原酒
2026年6月〜8月 国際線ビジネスクラス(長中距離) 山廃雄町
国内線ファーストクラス(プレミアムクラス) 観音下(かながそ)
2026年9月〜11月 国際線ビジネスクラス(短距離) JUNMAI ANA Special Edition
国際線 ANA LOUNGE 観音下(かながそ)
2026年12月〜2027年1月 国際線ファーストクラス 純米吟醸 無濾過原酒
2026年12月〜2027年2月 国際線ビジネスクラス(長中距離) 山廃愛山 無濾過原酒
国内線ファーストクラス(プレミアムクラス) 純米 無濾過原酒

出典:ANA 2026年10月16日プレスリリース。国内線の「プレミアムクラス」は2026年5月19日搭乗分から予約画面の表記が「ファーストクラス(プレミアムクラス)」に変わっているため、本記事でもその表記にそろえています。

この表を読むときのポイントは3つあります。

  • ファーストクラスには年2回、春(3月〜5月)と冬(12月〜1月)に出ます。どちらも無濾過原酒で、春が純米大吟醸、冬が純米吟醸です。
  • ビジネスクラスはほぼ通年です。春は山廃美山錦、夏は山廃雄町、秋は短距離線でANA限定の「JUNMAI ANA Special Edition」、冬は山廃愛山とつながります。ただし夏と冬は長中距離路線だけで、秋は短距離路線だけです。
  • 国内線のファーストクラス(プレミアムクラス)でも、夏と冬に出ます。国際線に乗る予定がなくても、羽田から1時間台のフライトで農口の酒に出会えるということです。

この記事を書いている2026年10月17日の時点では、国際線ビジネスクラスの短距離路線で「JUNMAI ANA Special Edition」が、国際線ANA LOUNGEで「観音下」が出ている期間にあたります。年末年始に欧米線のファーストクラスやビジネスクラスに乗る予定のある人は、12月以降に入れ替わる純米吟醸と山廃愛山を楽しみにしておいていいと思います。

ANAボーイング777-300ERの国際線ビジネスクラスの客室
ANAボーイング777-300ERの国際線ビジネスクラス。2026年はほぼ通年、路線をかえながら農口の酒が出る(写真:Wikimedia Commons / 衛兵隊衛士 / CC BY-SA 3.0)

上空のための特別な「火入れ」

ANAの発表には、機内で出る農口の日本酒が「特別に火入れを施した限定仕様」だと書かれています。火入れとは、搾ったあとの日本酒に60度から65度ほどの加熱処理をして、酵素の働きを止め、品質を安定させる工程のことです。

農口尚彦研究所の酒は、無濾過原酒や生酒に近い、フレッシュで力のあるタイプが多いことで知られています。ただ、機内は地上とは環境がちがいます。巡航中の客室の気圧は地上の0.8倍ほどで、湿度は10パーセントから20パーセントまで下がります。人間の味覚は、この環境で塩味や甘味を感じにくくなり、香りも立ちにくくなります。

つまり、地上でおいしい酒をそのまま機内にもちこんでも、同じようには味わえません。上空でも本来の豊かな味わいが出るように、ANA向けには火入れの条件を変えた仕様がつくられている。発表はそう説明しています。ふだん研究所の酒を飲みなれている人ほど、機内で出る一杯は「同じ銘柄だけれど別の仕上げ」として味わってみる価値があります。

ちなみに、ANAの国際線ファーストクラスでは2026年9月1日から、鹿児島の19農家だけが育てる米「あきほなみ 吟地米」が欧米6路線で出ています。米も酒も、産地と造り手の顔が見えるものを選ぶ。ANAの上級クラスの食は、ここ数年その方向にそろってきました。詳しくはANA国際線ファーストクラスに鹿児島の「あきほなみ 吟地米」の記事にまとめています。

伊丹空港のANA SUITE LOUNGEの受付
ANA SUITE LOUNGE(写真は伊丹空港)。国内の国際線ANA SUITE LOUNGEとANA LOUNGEでも農口の酒が提供されている(写真:Wikimedia Commons / 663highland / CC BY-SA 4.0)

2027年度も継続。翼の王国1月号で特集

今回の発表でいちばん実用的な情報は、2027年度(2027年3月から2028年2月)も農口尚彦研究所の日本酒を提供しつづける、と決まったことです。ANAの日本酒は毎年春に入れ替わるため、「来年も飲めるのか」はいつも春の発表を待たないとわかりませんでした。今回は半年近く前に、継続だけが先に決まった形です。

2027年度の銘柄、提供期間、クラスの割りあては、まだ決まっていません。ANAは「決まり次第改めてご案内」としています。例年どおりなら2027年2月ごろに、日本酒全体のラインナップとあわせて発表されるはずです。わたしもそのときに、この記事に追記します。

もうひとつ、2027年1月号の機内誌「翼の王国」で農口さんの特集記事が組まれる予定です。年末年始に乗る便の座席ポケットに、人間国宝になったばかりの杜氏の特集が入っていて、ファーストクラスではその人の酒が出ている。そういう1月になります。

農口尚彦という杜氏と小松という土地

農口尚彦さんは1932年、石川県能登町の生まれです。祖父と父につづいて16歳で酒造りの道に入り、1961年に菊姫(白山市)の杜氏になりました。以来36年、吟醸酒と、伝統的な山廃仕込みの復活に取り組み、「菊姫の農口」の名を全国に知らしめます。全国新酒鑑評会の金賞26回の多くは、この時代のものです。

1997年にいったん引退しますが、1年ほどで鹿野酒造(加賀市)の杜氏として戻り、「常きげん」を手がけます。79歳でふたたび引退。それでも2017年、84歳のときに小松市に農口尚彦研究所が設立され、総責任者として現役に復帰しました。研究所という名前には、農口さんの技術を若い世代が研究し、受け継いでいく、という意味がこめられています。ANAが出会ったのは、この復帰の年の農口さんです。

小松市は、ANAが羽田から1日に何便も飛ばしている小松空港の町でもあります。羽田から小松まで1時間ほど。研究所は小松の市街から車で30分ほどの山あいにあり、ガラス越しに酒造りの現場を見学できるギャラリーと、予約制のテイスティングルームを備えています。機内で農口の酒を知って、こんどは蔵まで会いにいく。そういう旅が組めるのも、この酒の特徴です。

小松空港に駐機するANAのボーイング737
小松空港に駐機するANA機。羽田から1時間ほどで研究所のある小松市に着く(写真:Wikimedia Commons / Ave reijin / CC0)

農口の酒に出会うには。クラスと路線の目安

では、実際にどう乗れば農口の酒に出会えるのか。2026年の提供予定をもとに、クラスごとの目安を整理します。国際線の「長中距離」「短距離」の区分はANAの機内サービス上の分けかたで、おおまかには欧米・オセアニア・インド・東南アジア線が長中距離、中国・韓国・台湾・香港線が短距離です。

乗りかた 出会える時期(2026年) ひとこと
国際線ファーストクラス(欧米線など) 3月〜5月/12月〜1月 無濾過原酒の純米大吟醸と純米吟醸。いちばん希少な枠
国際線ビジネスクラス 長中距離 3月〜8月/12月〜2月 山廃仕込みが中心。和食コースと合わせやすい
国際線ビジネスクラス 短距離 3月〜5月/9月〜11月 秋はANA限定の「JUNMAI ANA Special Edition」
国内線ファーストクラス(プレミアムクラス) 6月〜8月/12月〜2月 片道1万円台のタイムセール時でも同じ酒が出る
国際線 ANA LOUNGE(国内の空港) 9月〜11月 搭乗前に「観音下」を一杯。SFC会員・ビジネスクラス以上で利用可

なお、どのクラスでも日本酒は銘柄がいくつか用意され、便によっては「いずれか1銘柄」の積み込みになります。農口の酒が確実にあるとは限らない点は、ふくみおきください。確認したいときは、搭乗したら客室乗務員にメニューを見せてもらうのがいちばん早いです。

ファーストクラスやビジネスクラスの座席そのもの、機材ごとのちがいについては、ANAファーストクラス完全ガイド2026とANAビジネスクラス完全ガイドにまとめてあります。日本酒を主役にした記事としては、今年の夏にANAビジネスクラスの日本酒 浦霞禅も書いています。あわせて読むと、ANAが日本酒をどう選んでいるかが見えてきます。

まとめ

  • 2026年10月16日、文化審議会が杜氏の農口尚彦さん(93歳)を「吟醸造り」の保持者として人間国宝に認定するよう答申しました。生活文化の分野では初、杜氏としても初です。
  • 農口尚彦研究所の日本酒は、2017年のファーストビンテージ以来9年間、ANAの国際線ファーストクラス・ビジネスクラス・国内線ファーストクラス(プレミアムクラス)と、国内の国際線ANA SUITE LOUNGE・ANA LOUNGEで提供されてきました。
  • 機内向けの酒は、上空でも本来の味わいが出るように、特別な火入れを施した限定仕様です。
  • 2026年は、ファーストクラスで春と冬、ビジネスクラスでほぼ通年、国内線のファーストクラス(プレミアムクラス)で夏と冬に、それぞれ別の銘柄が出ます。10月の時点では短距離ビジネスクラスの「JUNMAI ANA Special Edition」と、国際線ANA LOUNGEの「観音下」の期間です。
  • ANAは2027年度(2027年3月から2028年2月)も提供を継続すると発表しました。銘柄と期間は未定で、決まりしだい案内されます。2027年1月号の「翼の王国」で農口さんの特集が組まれます。

発表の原文は、ANA公式のANAで9年間提供の日本酒醸造家・農口尚彦氏が「人間国宝」に認定答申(2026年10月16日)で読めます。いま乗る便でどの日本酒が出ているかは、国際線ファーストクラスのお食事・お飲み物、国際線ビジネスクラスのお食事・お飲み物、国内線プレミアムクラスのお食事・お飲み物の各ページで、搭乗前に確認できます。

よくある質問(FAQ)

Q. 農口尚彦さんはもう人間国宝に決まったのですか

A. 2026年10月16日に文化審議会が文部科学大臣に答申した段階です。正式な認定は官報での告示を待ちますが、答申がくつがえることは通常なく、認定される見通しです。重要無形文化財「吟醸造り」の保持者としての認定で、生活文化の分野では初、杜氏としても初になります。

Q. ANAのどのクラスで農口尚彦研究所の日本酒が飲めますか

A. 2026年は、国際線ファーストクラス(3月〜5月と12月〜1月)、国際線ビジネスクラス(長中距離は3月〜8月と12月〜2月、短距離は3月〜5月と9月〜11月)、国内線ファーストクラス(プレミアムクラス)(6月〜8月と12月〜2月)で提供されます。国内の国際線ANA LOUNGEでも9月〜11月に「観音下」が出ます。便によっては日本酒のうちいずれか1銘柄の積み込みになることがあります。

Q. 機内で出る農口の日本酒は市販のものと同じですか

A. 銘柄は同じでも、仕上げがちがいます。ANA向けには、気圧と湿度の低い上空でも本来の味わいが出るように、特別な火入れ(加熱処理)を施した限定仕様がつくられています。地上で飲む無濾過原酒とは別の一杯として味わうのがおすすめです。

Q. 2027年も飲めますか

A. 飲めます。ANAは2027年度(2027年3月から2028年2月)も農口尚彦研究所の日本酒を継続して提供すると発表しました。ただし銘柄・提供期間・クラスの割りあては未定で、決まりしだい案内されます。例年は2月ごろに日本酒全体のラインナップが発表されます。

Q. 農口尚彦研究所には行けますか

A. 行けます。研究所は石川県小松市観音下町の山あいにあり、小松の市街から車で30分ほどです。ガラス越しに酒造りを見学できるギャラリーと、予約制のテイスティングルームがあります。羽田から小松までANAで1時間ほどなので、機内で出会った酒を蔵まで訪ねる1泊2日の旅も組めます。営業日と予約方法は研究所の公式サイトで確認してください。



この記事を書いた人
TE travel 編集部
TE travel は、Team Elite メンバーによる旅行記録サイトです。ANAダイヤモンド・マリオット チタンエリート・ヒルトン ダイヤモンドなど、各プログラムの上級ステータスを実際に取得・維持しながら、ファーストクラス・ビジネスクラス・ラグジュアリーホテルを体験した記録を発信しています。ポイント・マイルの使い方から、上級会員だけが知る現場の実感まで、数字では伝わらない情報をお届けします。