2026年7月1日から、ANAの機内持ち込み手荷物のルールが厳格化される。これは「お願いベース」だった従来のルールを、空港での実測・チェックを伴う「実施ベース」へと移行する、大きな変化だ。
航空会社にとっても乗客にとっても影響の大きい今回の変更。ルールの中身、背景にある理由、そして実際にどう対応すればいいかを整理する。
なお、今回の変更はANAグループ運航便すべて、つまり国内線・国際線の両方が対象だ。一部の路線だけではなく、ANAが運航するフライト全般に適用される。
何が変わるのか ── 今回の変更点まとめ
ANAは2026年6月1日付で公式通知を発表した。変更の柱は「身の回り品」のサイズ規定の明確化と、それに伴う取り扱いの厳格化だ。
身の回り品のサイズ上限が初めて設定される
これまでANAでは、ハンドバッグやショルダーバッグなど「身の回り品」については具体的なサイズ規定がなかった。「前の座席の下に収まるもの」という運用上の基準はあったものの、実際には明確に測定されることはほとんどなかった。
7月1日からは、身の回り品のサイズ上限が 40cm × 30cm × 20cm と明確に定められる。この数値を超えるものは、身の回り品として機内に持ち込めなくなる。
持ち込み可能なアイテム数と重量制限
機内に持ち込めるのは合計2点まで。内訳は次のとおりだ。
| 種別 | サイズ上限 | 収納場所 |
|---|---|---|
| 手荷物(スーツケース・リュック等) | 55 × 40 × 25cm(3辺合計115cm以内) | 頭上の荷物棚 |
| 身の回り品(ハンドバッグ・ショルダーバッグ等) | 40 × 30 × 20cm(新設) | 前の座席の下 |
2点合わせた重量は10kgまで。この重量制限自体は変わらないが、実際にチェックが行われるようになることで、実効性が高まる。
チェックの方法が変わる
今回の変更で最も実態が変わるのが、空港でのチェック方法だ。これまでは「ルールはあるが、実際に計測されることはまれ」という状況だった。7月1日以降は次のような運用になる。
- 空港内に専用のサイズゲージが設置される
- 保安検査場の前や搭乗口で、スタッフによるサイズ・重量確認が行われる
- 超過した場合は、その場で預け入れ荷物として手続きが必要になる
「目視で明らかに大きいもの」だけでなく、ボーダーライン上のバッグも測定対象になる可能性がある。出発当日に荷物を預けることになれば、手続きに時間がかかるだけでなく、預け入れ料金が発生する場合もある。
国内線・国際線で何が同じで、何が違うのか
今回いちばん気になるのが「これは国内線だけの話なのか、国際線にも関係するのか」という点だろう。結論からいえば、今回の身の回り品サイズの新ルール(40 × 30 × 20cm以内)は、国内線・国際線のどちらにも適用される。ANAグループが運航するすべての便が対象だ。
ただし、機内持ち込み手荷物のルールは、もともと国内線と国際線で一部の数値が異なる。今回の変更とあわせて、両者の違いを整理しておく。
| 項目 | 国内線 | 国際線 |
|---|---|---|
| 身の回り品サイズ(7/1〜) | 40 × 30 × 20cm以内 | 40 × 30 × 20cm以内(共通) |
| 手荷物サイズ(100席以上の機材) | 55 × 40 × 25cm/3辺合計115cm以内 | 55 × 40 × 25cm/3辺合計115cm以内 |
| 手荷物サイズ(100席未満の機材) | 45 × 35 × 20cm/3辺合計100cm以内 | 45 × 35 × 20cm/3辺合計100cm以内 |
| 合計重量 | 10kg以内 | 10kg以内 |
| 持ち込み点数 | 身の回り品1個+手荷物1個 | 身の回り品1個+手荷物1個 |
こうして並べてみると、国内線と国際線で大きな差はない。手荷物のサイズ・重量・点数の基本ルールは両者でほぼ共通だ。機材が小さい路線(プロペラ機やリージョナルジェットなど100席未満の機材)では手荷物サイズの上限が一段小さくなる点には、国内線・国際線とも注意したい。
ポイントは、今回の「身の回り品サイズの明確化と実測チェック」が、国内線・国際線のどちらに乗る場合でも等しく適用されるということだ。海外旅行のときだけ、あるいは国内出張のときだけ気をつければいい、という話ではない。
なぜ今、厳格化されるのか ── 背景にある3つの理由
① 頭上収納スペースの奪い合いが深刻化している
機内の頭上収納スペースは有限だ。LCCが普及し、預け入れ料金を節約したい乗客が大型の手荷物を機内に持ち込む傾向が強まっている。その結果、フルサービスキャリアでも収納スペースが満杯になるケースが増えた。
「身の回り品」を頭上の棚に入れてしまう乗客も多く、本来の荷物棚を使う乗客が収納できなくなるという問題が起きている。「身の回り品は座席下に」というルールを実効化することで、棚のスペースを適切に管理する狙いがある。
② 安全上のリスクへの対応
頭上収納スペースに無理やり押し込まれた重い荷物は、落下事故のリスクがある。特に乱気流時や着陸時に、荷物棚が開いて荷物が落ちるインシデントは、国内外で報告されている。乗客への負傷事故を防ぐ観点から、搭載量を適切にコントロールすることは安全管理の一部でもある。
国土交通省は航空会社に対し、機内安全性向上の観点から手荷物管理の適正化を求めており、今回のANAの動きもその流れに沿っている。
③ 定時運航の維持
搭乗に時間がかかる原因のひとつが、手荷物の収納問題だ。荷物棚に入らない荷物を持った乗客が出るたびに、地上スタッフが対応し、搭乗が止まる。スムーズな搭乗フローを確保することは、ANAが重視する定時出発率にも直結する。
実際、ANAの定時出発率は国内外で高評価を受けているが、この水準を維持するためには、搭乗口でのトラブルを最小化する必要がある。ルールの厳格化はその手段のひとつだ。
定期航空協会の業界ガイドラインとの連動
今回の変更はANA単独の判断ではなく、定期航空協会(国内の主要航空会社で構成される業界団体)が策定したガイドラインに基づいている。国土交通省の指針を受けて業界全体で機内手荷物の適正管理に取り組む流れの中で、ANAはその実施に踏み切った形だ。
JALでも同様の方向性が示されており、今後、国内の主要キャリアが一斉にこのルールの実効化を進めていく可能性が高い。
例外・特別扱いとなるもの
すべての荷物が一律にチェックされるわけではない。次のものは例外扱いになる。
医療機器・補助具
CPAPや補聴器などの医療機器は、事前申告により持ち込みが認められる。ANA障がい者サポートデスクへの事前連絡が必要だ。服薬中の薬は機内持ち込み可能で、液体制限の対象外となる場合もある。
赤ちゃん連れ乗客
ベビーカーは1点の手荷物として扱われる。粉ミルクや離乳食は液体制限から除外される。
非常口座席・バルクヘッド前の座席
非常口座席や前が壁になっている座席では、足元に荷物を置けない。これらの座席に着席している乗客の身の回り品は、頭上の荷物棚への収納が認められる。
リチウム電池・モバイルバッテリー
モバイルバッテリーは預け入れ不可・機内持ち込みのみとなる。100Wh以下は制限数なし、100〜160Whは2個まで持ち込みが可能だ。これはサイズや重量のルールとは別の規定なので注意が必要だ。
実際にどう対応するか ── 旅行者への影響と準備
よく使うバッグのサイズを今すぐ確認する
40 × 30 × 20cmというサイズ感は、大きめのトートバッグや、ふくらんだリュックサックに引っかかる可能性がある。特にパソコンやカメラを入れて少し膨らんでいる状態のバッグは注意が必要だ。
目安として、A4書類が入るビジネスバッグは多くの場合ギリギリのサイズに相当する。使い慣れたバッグが規定内に収まるかどうか、実際にメジャーで測っておくことを強くすすめる。
荷物を預けるか、手荷物を1点にまとめるか
身の回り品が規定を超える場合、選択肢は2つある。
- 身の回り品をチェックインカウンターで預け入れ荷物にする
- 手荷物を1点(手荷物OR身の回り品)に減らしてまとめる
旅行が長い場合、荷物を全部機内に収めようとすると詰め込みすぎになりがちだ。7月以降は「預け入れを前提にしたパッキング」を考え直すよいタイミングかもしれない。
上級会員への影響
上級会員への影響
ダイヤモンド・プラチナなどの上級会員、あるいはビジネスクラス・ファーストクラス搭乗者も、今回のルール変更の対象外ではない。持ち込み点数の優遇(エコノミーより多く持ち込める場合もある)はクラスや会員資格によって異なるが、身の回り品のサイズ上限(40 × 30 × 20cm)はすべての乗客に適用される。
ビジネスクラスのラウンジを使いながら、たっぷりの荷物を持ち込むスタイルが一般的だったマイラー・上級会員も、この点は注意が必要だ。
「LCC並みの基準」という声にどう向き合うか
今回の変更について、「ANAがLCCと同じ水準になってしまう」という声がSNSやトラベルメディアで出ている。その感覚は理解できる。これまでは「預けなくても全部持ち込める」ことがフルサービスキャリアの暗黙の利便性のひとつになっていたからだ。
ただ、この変化を少し引いて見ると、「機内の公平なスペース管理」という観点では合理的な判断だともいえる。他の乗客が荷物を収納できずに困っていた状況を、ルールで整理するという方向性は理解できる部分もある。
一方で、上級クラス搭乗者にとっては「サービスの質」として感じていた部分が変わることへの戸惑いもある。ANAがプレミアムキャリアとしての価値をどこで示していくかは、今後の運用と顧客対応に表れてくるだろう。
まとめ
7月1日からのANA機内持ち込み手荷物の変更点を整理すると、次のようになる。
| 項目 | 変更前 | 変更後(7/1〜) |
|---|---|---|
| 身の回り品サイズ | 規定なし(座席下に収まること) | 40 × 30 × 20cm以内 |
| 手荷物サイズ | 55 × 40 × 25cm(変更なし) | 55 × 40 × 25cm(変更なし) |
| 合計重量 | 10kg(実測少) | 10kg(実測あり) |
| チェック方法 | 目視(実測はまれ) | サイズゲージ・重量計を使用 |
| 超過時の対応 | 搭乗口での口頭指導 | その場で預け入れ手続き |
旅慣れた乗客ほど、これまでは「少し大きめのバッグでも持ち込める」という経験則で旅の準備をしてきたかもしれない。7月以降はその前提が変わる。
出発当日に荷物をその場で預けることになれば、時間も料金も余計にかかる。事前に自分のバッグのサイズを確認し、必要に応じてパッキングを見直しておくことが、いちばんシンプルな備えだ。
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