ANAファーストクラスの赤ワイン 紫鈴 rindo——カプコン創業者がナパにつくったKENZO ESTATEの物語

ANAファーストクラスのワインリストには、ボルドーやブルゴーニュの銘醸ワインにまじって、日本語の名前がひとつ載っています。紫鈴 — りんど、と読みます。

つくっているのは、カリフォルニア・ナパ・ヴァレーのワイナリー、KENZO ESTATE(ケンゾー エステイト)。オーナーは、ゲーム会社カプコンの創業者・辻本憲三さんです。日本のフラッグキャリアのファーストクラスで、日本人がナパでつくったワインが注がれる。この記事では、ANAファーストクラスで紫鈴を味わったわたしが、このワインとワイナリーの物語、そして空の上での楽しみ方を紹介します。

紫鈴 rindoとはどんなワインか

紫鈴は、KENZO ESTATEのフラッグシップに位置づけられる赤ワインです。カベルネ・ソーヴィニヨンを主体に、メルロ、プティ・ヴェルド、カベルネ・フラン、マルベックをブレンドした、いわゆるボルドー・スタイル。現行の2022年ヴィンテージは、カベルネ・ソーヴィニヨン55%、メルロ26%、プティ・ヴェルド9%、カベルネ・フラン7%、マルベック3%という構成です。

味わいは、一貫して「深みとしなやかさを併せもつ繊細な赤ワイン」と表現されます。力強さがありながら重すぎず、タンニンはビロードのようになめらかできめ細かい。ナパの凝縮した果実味と、フランス的な上品さが同居した一本です。

名前の由来も美しいのです。「紫」は高貴さと上質なブドウを、「鈴」はブドウが鈴なりに実る畑の姿を表しています。そして「りんど」という響きは、しなやかで優雅な竜胆の花につながります。ラベルの文字は書家の手によるもので、ボトルそのものが日本の美意識をまとっています。

項目 内容
ワイナリー KENZO ESTATE(アメリカ・ナパ・ヴァレー)
オーナー 辻本憲三(カプコン創業者)
スタイル ボルドー・スタイルの赤ワイン(フラッグシップ)
品種構成(2022年) カベルネ・ソーヴィニヨン55%/メルロ26%/プティ・ヴェルド9%/カベルネ・フラン7%/マルベック3%
価格 750ml 15,950円/375ml 7,975円(いずれも税込)
ANAでの提供 国際線ファーストクラス(ヴィンテージは時期により異なる・搭乗時は2021年)

カプコン創業者がナパにつくったワイナリー — KENZO ESTATEの物語

KENZO ESTATEの物語は、ワイン好きなら知っておいて損のないストーリーです。

オーナーの辻本憲三さんは、ストリートファイターやバイオハザードで知られるカプコンの創業者。その辻本さんがナパ・ヴァレーの東側の丘陵地に手に入れた土地は、じつに470万坪。東京ドームがいくつも入る広大な敷地のうち、ブドウ畑が占めるのはわずか4%、約12万坪だけです。自然をほとんどそのまま残した、ナパでも有数のスケールをもつエステートです。

2001年には、ナパのカルトワインを支えるブドウ栽培の名手、デイヴィッド・アブリュー氏が参画。彼の提言で畑を根本からつくり直し、2005年にようやく納得のいくブドウが収穫されました。醸造を指揮するのは、ワイン評論家のロバート・パーカー氏から「ワインづくりの女神」と称されたハイディ・バレット氏。伝説的なカルトワインを手がけてきた人物です。

そして2008年、ファーストヴィンテージとなる2005年の「紫鈴 rindo」「紫 murasaki」「藍 ai」の3本がリリースされました。土地の取得から最初の一本まで、およそ20年。ゲームで世界を制した経営者が、今度はワインで世界に挑んだ。その本気の結晶が紫鈴です。

その後の歩みも順調で、紫鈴は累計100万本を売り上げる看板ワインに育ちました。ナパの高級ワインというと手が届かない印象がありますが、KENZO ESTATEは「最高のワインを一人でも多くの人に」を掲げ、品質のわりに手の届きやすい価格を保っているのも特徴です。日本市場をたいせつにしているワイナリーなので、公式サイトもオンラインショップもすべて日本語で完結します。

ANAファーストクラスが紫鈴を選んだ

ANAは2024年、機内とラウンジのワインを4年ぶりに刷新しました。1,000を超える銘柄から選ばれたのは41銘柄。2000年世界最優秀ソムリエのオリヴィエ・プーシエ氏とソムリエの森覚氏のアドバイスを受け、試飲審査を経て選定されています。

ファーストクラスの赤ワインリストには、シャトー・オー・バタイエ(ポイヤック)、ニュイ・サン・ジョルジュ、ポマール、シャトーヌフ・デュ・パプといったフランスの銘醸ワインが並びます。そのなかに、Kenzo Estateの紫鈴。日本人がナパでつくったワインが、世界の名だたる産地のワインと同じテーブルに載っているのです。刷新発表時のヴィンテージは2019年、わたしが搭乗したときに提供されていたのは2021年でした。

ANAのファーストクラスに乗る日本人のお客さまにとって、これほど物語のあるワインはありません。ワインリストで紫鈴の名前を見つけたら、ぜひ一杯お願いしてみてください。

空の上で味わう紫鈴

ANAファーストクラスの機内で提供された紫鈴 rindo(2021年ヴィンテージ)のボトル

じつは、機内は赤ワインにとってなかなか厳しい環境です。気圧が低く空気が乾燥しているため、地上より渋みや酸を強く感じやすく、若くタンニンの硬いワインは本来の魅力を出しにくいといわれます。

その点、紫鈴は機内向きのワインだと、わたしは思います。持ち味であるビロードのようになめらかなタンニンは、高度1万メートルでも角が立ちません。凝縮した果実味がありながら重すぎないので、長いフライトの食事にも寄り添ってくれます。ソムリエたちが1,000銘柄から選び抜いた理由が、ひと口飲むとわかります。

ANAファーストクラスのメインディッシュと赤ワイン

合わせるなら、洋食コースのメインの肉料理がいちばんです。和食を選んだ場合でも、すき焼きや和牛の一皿が出てくるタイミングでグラスをお願いすると、みごとに調和します。フルボトルを開けても飲みきれない地上とは違って、機内ならグラス1杯から気軽に試せる。15,950円のワインとの、いちばん贅沢な出会い方かもしれません。

頼み方に決まりはありませんが、わたしのおすすめは、食事の前半はクリュッグ グランド・キュヴェで通して、メインの手前で紫鈴に切り替える流れです。シャンパーニュの帝王から、日本人がナパでつくった赤へ。ワインリストの上だけでも、フランスとカリフォルニアと日本をめぐる小さな旅ができます。クルーに「紫鈴をグラスで」と伝えれば、ボトルを見せながらていねいに注いでくれます。

動画で見るANAファーストクラス

ANAファーストクラス THE Suiteの機内の様子は、動画でも記録しています。お食事やドリンクのサービスの雰囲気は、こちらでご覧ください。

地上で紫鈴を手に入れるには

機内で紫鈴を気に入ったら、地上でも手に入れることができます。KENZO ESTATEの公式オンラインショップで購入でき、現行ヴィンテージは2022年。750mlが15,950円(税込)、ハーフボトルの375mlが7,975円(税込)です。ハーフボトルがあるのはうれしいところで、まずは気軽に試したい方や、ギフトにもちょうどいいサイズです。

フライトの記憶を、自宅の食卓でもう一度。機内で出会ったワインを地上で開けると、あの旅の時間がよみがえります。わたしはこの楽しみ方を、旅のいちばん静かな余韻だと思っています。

よくある質問

紫鈴はなんと読みますか?

「りんど」と読みます。英字表記はrindoです。「紫」は高貴さと上質なブドウを、「鈴」はブドウが鈴なりに実る畑の姿を表しています。

紫鈴はどこのワインですか?

アメリカ・カリフォルニア州ナパ・ヴァレーのワイナリー、KENZO ESTATE(ケンゾー エステイト)のフラッグシップワインです。オーナーはカプコン創業者の辻本憲三氏です。

紫鈴の価格はいくらですか?

公式オンラインショップで750mlが15,950円(税込)、375mlが7,975円(税込)です。現行ヴィンテージは2022年です。

ANAファーストクラスではいつから紫鈴が飲めますか?

2024年のANAワインセレクション刷新(機内は2024年12月から順次)で、ファーストクラスの赤ワインとしてラインナップされています。提供ヴィンテージは時期により変わり、わたしの搭乗時は2021年でした(提供銘柄は変更になる場合があります)。

まとめ — 日本人の挑戦を、空の上で味わう

ファーストクラスのワインリストは、それ自体がひとつの物語集です。シャンパーニュの帝王クリュッグがあり、ボルドーとブルゴーニュの銘醸があり、そこに日本人がナパで20年かけてつくり上げた紫鈴が並んでいる。

次にANAファーストクラスに乗る機会があれば、ぜひ紫鈴を一杯お願いしてみてください。ゲームで世界を驚かせた経営者が、ワインでもう一度世界に挑んだ物語。その結晶を高度1万メートルで味わう時間は、旅の特別な記憶になるはずです。

ワインは、味だけで飲むものではありません。物語といっしょに飲むものです。紫鈴ほど豊かな物語をもったグラスは、世界のファーストクラスを見わたしても、そう多くはないと思います。

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この記事を書いた人
TE travel 編集部
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