南アフリカのワイン産地を訪れたとき、
「なぜ、もっと早く来なかったのか」
と感じた。そこは最高の体験が待っていた。
日本からシンガポールへ飛び、ヨハネスブルクでトランジットして、ケープタウンに降り立つまで20数時間。遠い。正直に言って、遠い。
しかし到着した瞬間、その疲れはすべて消える。テーブルマウンテンのシルエット、澄みきった青い空、海からの冷たい風。「来た」という実感が一気に押し寄せる。

今回の旅は2020年2月15日から23日までの9日間。ワイナリーを巡ったのは6日間で、計16のワイナリーを訪れた。
アリステア、ヴィラフォンテ、カノンコップ、ラステンバーグ、アタラクシア、ブーケンハウツクルーフ、ポール・クルーバー、ジュリアン・スカール、キャサリン・マーシャル、ステレンラスト、ラーツ、デイビッド&ナディア、シティ・オン・ア・ヒル、グレネリー、コンスタンシア・グレン、ロングリッジ。
ケープタウンの観光も含めると、密度の濃い7日間だった。テーブルマウンテンの頂上から見た景色、ボルダーズビーチのペンギン、ケープポイントの断崖絶壁。ワインだけでなく、この場所そのものが持つ力を感じた旅だった。
南アフリカのワインランドまでなかなか足を運べないワイン好きのために、できるだけ詳しく書いておく。
ケープタウン:世界で最も美しい海岸線をもつ街

ケープタウンは「世界で最も美しい海岸線を持つ都市のひとつ」と言われる。
実際に車を走らせると、その評価に偽りがないことがわかる。大西洋と南極海に挟まれた半島の先端に位置し、テーブルマウンテン(1,085m)が市街地のすぐ背後にそびえる。こんな地形を持つ都市は世界にほかにない。
ワイナリー巡りに入る前日と最終日、ケープタウン観光に時間をとった。テーブルマウンテン、ケープポイント、ボルダーズビーチの3か所は、ワインランドと同じくらい強く記憶に残っている。
テーブルマウンテン

ロープウェイで約5分。標高1,085mの頂上に立つと、360度の絶景が広がる。眼下にケープタウンの市街地と大西洋、半島の南端が一望できる。晴れた日にはロベン島(ネルソン・マンデラが27年間投獄されていた場所)まで見えた。


頂上は広大な台地になっており、固有の植物「フィンボス(Fynbos)」が茂っている。この独特の植生は南アフリカのケープ地方にしか存在しない生態系で、ユネスコ世界遺産にも登録されている。ワイン産地の土台となるケープ折り畳み山脈の地質や気候と、ここで育つ植物は深いところでつながっている。
ひとつ注意が必要なのは天気だ。テーブルマウンテンは「テーブルクロス」と呼ばれる雲に覆われることが多く、頂上が見えない日も多い。ロープウェイが強風で運休することもある。晴天の日に合わせて予定を組むことをすすめる。
ボルダーズビーチのアフリカンペンギン

ケープタウンから南へ約50km、サイモンズタウンの近くにあるボルダーズビーチ。大きな岩(ボルダー)が点在する白い砂浜に、数千羽のアフリカンペンギンが暮らしている。
はじめて見たとき、思わず笑った。南アフリカの晴れた海岸で、ペンギンが岩の陰でごろごろとくつろいでいる。熱帯に近いこの場所でペンギンが生息できるのは、南極から流れてくるベンゲラ海流が海水温を下げ、豊富な魚をもたらすからだ。この冷たい海流こそ、ステレンボッシュやフランシュックのワイン産地に夏の涼しさをもたらしているものと同じだ。
木製の遊歩道から間近で観察できる。繁殖期(9月〜11月)には雛も見られる。ペンギン目当てで来た旅行者がそのままワインランドに流れる、というのが南アフリカ旅行の定番コースになっている。
ケープポイント:アフリカ大陸の果て

ケープ半島の南端、テーブルマウンテン国立公園の中に位置するケープポイント。急峻な崖が大西洋と南極海に面しており、「2つの海が出会う場所」とも言われる(地理学的には正確ではないが、感覚としては正しい)。
崖の上に立つと、水平線まで遮るものが何もない。南極まで6,000km以上、次の陸地は南極大陸だ。海から吹き上げる風が強く、帽子が吹き飛びそうになる。ここまで来た旅人は必ずこの崖の上に立ち、しばらく動けなくなる。
ケープポイントへの道中はケープ半島自然保護区を通る。道端にヒヒ(バブーン)が現れることがあるので、車の窓を開けたまま停車しないこと。荷物を取られた旅行者の話は珍しくない。
南アフリカのワイン産地を理解するための地理と気候
16のワイナリーを訪れる前に、南アフリカのワイン産地の全体像を整理しておきたい。
南アフリカのワイン産地は「ケープ・ワインランド」と総称され、ケープタウンを中心に半径200km圏内に集中している。最大の特徴は、大西洋と南極海という2つの海流がワイン造りに決定的な影響を与えていることだ。
西側の大西洋には南極から流れてくる「ベンゲラ海流」という冷たい海流が走る。この冷流が夏の気温を抑制し、ステレンボッシュ、フランシュック、コンスタンシアといった産地に冷涼さをもたらす。東側のインド洋には「アグラス海流」が流れ、ウォーカー・ベイ周辺やエルギンに穏やかな海洋性気候を生む。
気候は地中海性で、夏(12〜3月)は乾燥して暖かく、冬(6〜8月)に雨が集中する。土壌は花崗岩、頁岩(シスト)、砂岩、沖積土など多様で、この複雑な組み合わせが産地ごとの個性を生んでいる。
| 産地 | 標高 | 主要土壌 | 主要品種 | 今回の訪問ワイナリー |
|---|---|---|---|---|
| コンスタンシア | 50〜300m | 花崗岩・砂岩 | ソーヴィニヨン・ブラン、セミヨン | コンスタンシア・グレン |
| ステレンボッシュ | 50〜500m | 花崗岩・頁岩・砂岩 | カベルネ・ソーヴィニヨン、シュナン・ブラン、ピノタージュ | ヴィラフォンテ、カノンコップ、ラステンバーグ、ステレンラスト、ラーツ、シティ・オン・ア・ヒル、グレネリー、ロングリッジ |
| フランシュック | 200〜600m | 花崗岩・頁岩 | セミヨン、シラー | ブーケンハウツクルーフ |
| エルギン | 300〜500m | ケープ砂岩・花崗岩 | ピノ・ノワール、シャルドネ | アタラクシア、ポール・クルーバー、ジュリアン・スカール、キャサリン・マーシャル |
| スワートランド | 50〜400m | シスト(頁岩)・花崗岩 | シュナン・ブラン、グルナッシュ | アリステア、デイビッド&ナディア |
DAY 1:アリステア — 古木の声を聴くために
Alheit Vineyards(アリステア・ヴィンヤーズ)

南アフリカワインを真剣に飲んでいる人なら、クリス・アリステアとスザン・アリステアの名前を知っているだろう。2010年代以降、南アフリカで最も世界的な注目を集めた醸造家のひとりだ。
アリステアは特定のワイナリーに縛られない生産者だ。自ら畑を持つのではなく、ケープ全土の各地に残る樹齢50〜100年以上の古木ブドウ畑を探し出し、農家と契約して果実を購入する。スワートランド、フランシュック、フェアベルイ、ハンニバル・マーティンなど、複数の産地の古木シュナン・ブランをそれぞれ個別に醸造し、ブレンドまたは単一で瓶詰めする。
その哲学は明確だ。「南アフリカで最も重要なことは、古い樹を守り、その声をワインに記録することだ」とクリスは言う。南アフリカには1950〜70年代に植えられた古木のシュナン・ブランが世界でも有数の規模で残っている。これは世界のワイン産地でもほかに類を見ない遺産だが、農家が収益の上がる品種に植え替えてしまえば、一本一本が永遠に失われる。
フラッグシップワインは「カートロジー(Cartology)」だ。「地図を描くこと」を意味する名前のとおり、複数の産地の古木シュナン・ブランをブレンドして南アフリカのテロワールの「地図」を一本に描き出そうとする試みだ。
グラスに注いだカートロジーは、淡い黄金色。第一印象はびっくりするほど静かだ。派手な果実香が前に出るのではなく、洋梨と白桃の奥に古い柑橘の皮のニュアンス、乾いた石のようなミネラル感が立ち上がる。口に含むと、きれいな酸と塩味を帯びたミネラルが骨格を作り、長く続く余韻が残る。これは「飲む」というよりも「聴く」ワインだと思った。
「ラジオ・ラザルス(Radio Lazarus)」はスワートランドの単一区画の古木から造られる白で、カートロジーよりも果実が凝縮し、よりダイレクトな表現だ。「ハンニバル・マーティン(Hannibal Martin)」は1952年植樹の超古木シュナン・ブランで、年産わずか500本前後の稀少品だ。
アリステアのワインに共通するのは、南アフリカらしさだ。ボルドーでもブルゴーニュでもなく、この土地の古い樹が語る独自の言語がある。ワインを通じて南アフリカという場所と対話しているような感覚を覚えた。
代表ワイン
・Alheit Cartology(フラッグシップ・古木シュナン・ブランブレンド)
・Alheit Radio Lazarus(スワートランド単一区画)
・Alheit Hemelrand Vuilpapier(フランシュック)
・Alheit Magnetic North(単一畑シリーズ)
DAY 2:ヴィラフォンテ、カノンコップ、ラステンバーグ — ステレンボッシュの正統派
ステレンボッシュの地形と気候
ケープタウンから東へ約50km。ステレンボッシュはケープ・ワインランドの中心地だ。市街地を囲むように、ステレンボッシュ山(1,234m)、ヘルダーバーグ(1,140m)、シモンスバーグ(1,359m)という3つの山塊がそびえ、複雑な微気候を生み出している。
土壌は大きく3種類に分かれる。低地には沖積土が広がり豊かで肥沃。丘の中腹には風化した花崗岩質土壌が広がり、ミネラル豊かで複雑味のあるワインを生む。さらに標高の高い一部にはシスト(頁岩)が出現し、独特の深みを持つワインになる。
夏の平均気温は25℃前後で、海からの冷たい南東風「ケープ・ドクター」が熱を和らげる。この風がブドウの酸度を保つ重要な役割を担っている。
Vilafonté(ヴィラフォンテ)

ヴィラフォンテは南アフリカと米国のワイン界が手を結んで生まれたプロジェクトだ。南アフリカ側はウォーリック・エステートのマイク・ラトクリフ、米国側はナパ・ヴァレーで名声を確立したジェルマ・ロング(サンタ・クルーズ・マウンテンやソノマ・カウンティで醸造長を歴任した伝説的人物)が手を組んだ。
パールとステレンボッシュの境界近く、標高250〜350mのヘルダーバーグ山麓の南向き斜面に畑がある。ボルドー系品種の赤ワインに特化した生産者で、年間2,000ケースという少量生産を守り続けている。

「シリーズC(Series C)」はカベルネ・ソーヴィニヨン主体のブレンドで、深いルビー色、ブラックカラントと黒スグリ、シダーとタバコのアロマが複雑に重なる。タンニンは力強く構造的だが、余韻に向かって少しずつほどけていくシルキーさがある。ナパのカベルネが「豊かさ」なら、ヴィラフォンテは「骨格と知性」だ。
「シリーズM(Series M)」はメルロー主体のブレンド。こちらはよりリッチでヴェルヴェットのような質感で、プラムとチョコレートのニュアンスが前面に出る。シリーズCとシリーズMを並べて飲むと、同じ畑でも主要品種の違いでこれほどキャラクターが変わるという発見がある。
テイスティングルームは畑を見下ろす位置に建てられており、グラス片手に目の前の斜面を眺めながらこれらのワインを飲む体験は、格別だ。
代表ワイン
・Vilafonté Series C(カベルネ主体・フラッグシップ)
・Vilafonté Series M(メルロー主体)
・Vilafonté Seriously Old Dirt(古木畑からの特別キュヴェ)
Kanonkop(カノンコップ)

南アフリカでピノタージュといえばまずこの名が挙がる。カノンコップはステレンボッシュのシモンスバーグ山麓、標高200〜300mに位置する家族経営のワイナリーだ。創業は1910年代にさかのぼる。
ピノタージュは1925年に南アフリカで作出された交配品種で、ピノ・ノワールとエルミタージュ(南アフリカではシンソーとも呼ぶ)の掛け合わせだ。カノンコップはこの固有品種の世界最高の解釈者として知られ、「ピノタージュの神」と称された醸造家アビー・ビューケンホウトが長年ワインを造り続けた。
テイスティングルームは古い農場の建物を改装したもので、白壁と木製の梁が南アフリカ特有のケープ・ダッチ建築の美しさを見せる。

グラスに注いだカノンコップ・ピノタージュの色は、ほぼ黒に近いルビー。熟したプラムとダークチェリー、スモークとスパイスの複雑な香りが立ち上がる。タンニンは力強く構造的だが、全体的に均整が取れており、長期熟成のポテンシャルを感じさせる。南アフリカワインのアイデンティティそのものだと思った。

カノンコップの畑は80年以上の樹齢を持つ古木が多く含まれる。「ブッシュ・ヴァイン」と呼ばれる仕立てで、支柱も棚もなくブドウの樹が自立して丸い灌木状に育つ。古木のブッシュ・ヴァインからは収量は少ないが、根が深く張り、土壌のミネラルを豊かに汲み上げる。
「ポール・ソーア(Paul Sauer)」はカベルネ・ソーヴィニヨン主体のボルドーブレンドで、カノンコップのもうひとつのフラッグシップだ。一般的にはピノタージュのほうが知名度が高いが、ポール・ソーアのほうがより複雑で長い熟成に向くという評価もある。

代表ワイン
・Kanonkop Pinotage(南アフリカ最高のピノタージュのひとつ)
・Kanonkop Paul Sauer(カベルネ主体の最高峰ブレンド)
・Kanonkop Cabernet Sauvignon
・Kanonkop Kadette(カジュアルラインでも水準が高い)
ステレンボッシュの街を歩く

午後はステレンボッシュの街を歩いた。南アフリカで2番目に古い町(1685年建設)で、白塗りのケープ・ダッチ建築が立ち並ぶメインストリート「ドルプ・ストリート(村の通り)」は200年前に時を止めたかのようだ。

ステレンボッシュ大学のキャンパスが街と一体化しており、学生たちが行き交うカフェや書店が観光客向けのワインショップと隣り合わせになった独特の空気がある。街の至るところにブドウの樹が植えられており、歩いているだけでワインの世界に浸れる。
夕暮れ時にドルプ・ストリートのテラスでグラスを傾ける時間は、ワイン旅でしか味わえない特別なものだった。注文したのはステレンボッシュ産のシュナン・ブラン。100ランド(約700円)。この品質でこの価格は、日本では絶対に出会えない。
Rustenberg(ラステンバーグ)

1682年創業。南アフリカ最古の部類に入るワイン農場のひとつで、バーロウ家が4代にわたって守り続けている。ステレンボッシュのシモンスバーグ山麓、標高200〜400mに広がる360ヘクタールの農場は、農業遺産としての価値も高い。

ラステンバーグで最も有名なワインは「ピーター・バーロウ(Peter Barlow)」だ。カベルネ・ソーヴィニヨンの単一品種で、最高の畑の果実のみを使う。深いルビー色、ブラックカラントとシダー、タバコのアロマ、細かいタンニンと長い余韻。南アフリカのカベルネ・ソーヴィニヨンの教科書のような一本だ。
「ジョン・X・メリマン(John X Merriman)」はカベルネを中心にメルロー、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルドをブレンドしたボルドースタイル。ピーター・バーロウよりもより複雑で、さまざまな品種がそれぞれの役割を持って調和している。
忘れてはならないのが白ワインだ。「ファイブ・ソルジャーズ(Five Soldiers)」はステレンボッシュのシャルドネで、フランスのムルソーに近いリッチでバターのような質感に、きれいな柑橘系酸が加わる傑作だ。
農場内を歩くと、17世紀に建てられた石造りのセラーや屋敷が今も現役として使われている。南アフリカの歴史そのものを歩いているような感覚がある。

代表ワイン
・Rustenberg Peter Barlow(カベルネ・ソーヴィニヨンの最高峰)
・Rustenberg John X Merriman(ボルドーブレンド)
・Rustenberg Five Soldiers Chardonnay
・Rustenberg Buzzard Kloof Syrah
DAY 3:アタラクシア、ブーケンハウツクルーフ、ポール・クルーバー、ジュリアン・スカール — エルギンの冷涼な世界へ
エルギンの地形と気候
ケープタウンから東へ約80km。N2号線を走り、しばらくすると山を越えた先に霧が漂う台地が広がる。エルギンに入った瞬間、空気が変わる。標高300〜500mのプラトー(台地)に広がるこの産地は、南アフリカで最も冷涼なワイン産地のひとつだ。
年間降水量は700〜1,000mmとケープ・ワインランドの中でも多く、夏の霧が頻繁に発生する。最高気温が22℃を超える日が少なく、ブドウの成熟期間は長く穏やかだ。これがエルギンのワインに特徴的な繊細な酸と、アロマの複雑さをもたらす。
かつてリンゴ農園として知られたこの産地に、1980年代から先駆者たちが「この冷涼な気候はピノ・ノワールとシャルドネに向いている」と気づき始めた。今では南アフリカの冷涼地ワインの代名詞になっている。
Ataraxia(アタラクシア)

「アタラクシア」とはギリシャ語で「平静心」「心の平和」を意味する。名前のとおり、ここのワインは騒がしくない。
醸造家ケビン・グラントはニュージーランドとブルゴーニュで経験を積んだ後、南アフリカに戻り、エルギンとヘメル・アン・アルデ(ウォーカー・ベイ近郊)で栽培した果実でワインを造る。年産わずか3,000〜4,000ケースという少量生産で、南アフリカの批評家から一貫して最高評価を得ている。
シャルドネが傑出している。バーガンディの上質なクリュ・ド・ブルゴーニュを思わせる構造を持ちながら、南アフリカ独自のミネラル感と酸の鮮度が加わる。バターとトーストのニュアンスはあるが、それが全体のバランスを崩さない。長い余韻の中に生姜とレモンの皮のフレーバーが現れ、記憶に残る。
ピノ・ノワールも同様に洗練されている。赤いチェリーとラズベリー、スパイスの香りが繊細に重なり、タンニンは細かく上品だ。「ピノ・ノワールは南アフリカでは育たない」という古い先入観を、アタラクシアのピノ・ノワールは完全に覆す。
テイスティングは予約制で、少人数でのみ受け付けている。畑を見下ろす素朴な試飲スペースで、ケビン自身がワインの背景を語りながらグラスを注いでくれた。

代表ワイン
・Ataraxia Chardonnay(南アフリカ最高の白ワインのひとつ)
・Ataraxia Pinot Noir
・Ataraxia Sauvignon Blanc
・Ataraxia Under the Gavel(セカンドライン)
Boekenhoutskloof(ブーケンハウツクルーフ)

「ブナの木の谷」を意味するこのワイナリーは、フランシュックの谷の奥まった場所にある。1776年に農地として開かれ、1996年に7人の共同オーナーが現代的なワイナリーとして復活させた。
ブーケンハウツクルーフを語るとき、まず「ザ・チョコレート・ブロック(The Chocolate Block)」の話をしなければならない。シラーを中心にグルナッシュ、サンソー、カベルネ・フラン、ヴィオニエをブレンドしたこのワインは、現在世界60カ国以上に輸出される南アフリカのベストセラーだ。名前の由来は醸造家がティスティング中に「板チョコのような質感だ」と言ったことから。チョコレートのリッチな風味に、スパイスとダークフルーツが複雑に絡み合う。
プレミアムラインの「セヴン・チェアーズ・シラー(Seven Chairs Syrah)」は7人のオーナーを象徴する。フランシュックの固い花崗岩土壌から育てたシラーは、北ローヌのコルナスを彷彿させる動物的な野生味と、南アフリカ特有のフレッシュなブルーフルーツの風味を兼ね備えている。
白ワインでは「セミヨン」が特別な位置を占める。フランシュックには300年前のユグノー教徒が持ち込んだセミヨンの古木が今も残っており、ブーケンハウツクルーフはその最も古い区画を所有している。樹で熟成されたセミヨンは蜂蜜とレモンカード、白桃のアロマとともに長い余韻と卓越した熟成ポテンシャルを持つ。

代表ワイン
・Boekenhoutskloof The Chocolate Block(世界的ベストセラー赤ブレンド)
・Boekenhoutskloof Syrah Seven Chairs(プレミアムシラー)
・Boekenhoutskloof Semillon(古木由来の白の最高峰)
・Wolftrap(カジュアルライン、高コスパ)
Paul Cluver(ポール・クルーバー)

エルギンのパイオニアとして最大の生産者として知られる。土地の歴史は1898年にさかのぼり、現在もクルーバー家が4代にわたって農場を管理している。農場の規模は約2,000ヘクタールで、そのうちブドウ畑は130ヘクタール。残りは自然保護区として保全されており、農場内を貫く小川は上流から下流まで汚染ゼロを維持している。
「セヴン・フラッグス・ピノ・ノワール」は南アフリカのピノ・ノワールを語るとき必ず名前が出る一本だ。赤いチェリー、ラズベリー、淡いスパイスが折り重なる。タンニンは繊細で、ブルゴーニュのヴィラージュ級に引けを取らない。
シャルドネも傑出している。柑橘系の果実とバター、トースト、細かいミネラル感が調和し、酸がきれいに骨格を作っている。エルギンの冷涼な気候がいかにシャルドネに向いているかを証明する。
リースリングも見逃せない。南アフリカでリースリングを造る生産者は少ないが、ポール・クルーバーのそれはドイツのモーゼルを思わせるほど繊細で、ペトロール(石油)のニュアンスを帯びた熟成ポテンシャルを感じさせる。
テイスティング後は農場のエコウォークに参加した。リンゴ畑とブドウ畑が隣り合う光景、小川沿いの自然保護区の静けさ。ワイナリー訪問が単なるテイスティングを超えた体験になる場所だ。


代表ワイン
・Paul Cluver Seven Flags Pinot Noir(南アフリカ最高クラスのピノ・ノワール)
・Paul Cluver Chardonnay
・Paul Cluver Riesling(南アフリカ最高のリースリング)
・Paul Cluver Sauvignon Blanc
Julian Schaal(ジュリアン・スカール)

フランスのアルザス出身の醸造家ジュリアン・スカールが、南アフリカのエルギンとその周辺地域で造るワインだ。ブルゴーニュのドメーヌで経験を積んだ後、「南アフリカの冷涼地には世界水準の可能性がある」と確信してこの地に移った。
ジュリアンのアプローチは徹底して低介入だ。天然酵母のみで発酵させ、SO2添加は最小限、フィルタリングなし。ワインは「つくる」のではなく「育てる」という哲学がある。
シャルドネはビオディナミ農法で育てた果実から造られ、発酵はノン・フィルターの古樽で行われる。グラスに注ぐと、黄金色の中に緑がかった輝きがある。柑橘の皮と花の蜜のアロマ、口の中で広がるきめ細かなテクスチャー。ブルゴーニュのシャサーニュ・モンラッシェを思い起こさせる造りだが、南アフリカの太陽が育てた豊かさが下地にある。
ピノ・ノワールはエルギンの果実のみを使い、全房発酵を部分的に採用している。全房から来る茎の風味が赤い果実の香りとスパイス感に絡み合い、軽くて透き通った色調の中に深い複雑さを宿す。ブルゴーニュのジュヴレイ・シャンベルタン村で飲んでいると言われたら信じてしまいそうだ。
年産は非常に少量で、世界中のナチュラルワイン愛好家がオンラインで注文する。南アフリカ現地でも入手が容易ではない稀少な生産者だ。
代表ワイン
・Julian Schaal Chardonnay(エルギン産・ビオディナミ)
・Julian Schaal Pinot Noir
・Julian Schaal Riesling
・Julian Schaal Syrah(スワートランドからの調達)
DAY 4:キャサリン・マーシャル、ステレンラスト、ラーツ — 職人たちのワイン
Catherine Marshall(キャサリン・マーシャル)

エルギン産地でもウォーカー・ベイ近郊でも活動する女性醸造家、キャサリン・マーシャル。南アフリカのワイン業界で最も尊敬される女性醸造家のひとりで、冷涼地品種に対する深い理解と、繊細で透明感のある造りで知られる。
キャサリン・マーシャルのピノ・ノワールはエルギンの中でも最高標高の区画から造られる。軽やかで透明感があり、赤いフルーツとドライフラワーの繊細なアロマが印象的だ。タンニンはほとんど感じないほど緻密で、まるで空気を飲んでいるかのような感覚がある。これが南アフリカのワインだと言われたら、ほとんどの人が信じないだろう。
シャルドネは2種類あり、スタンダードとオークのニュアンスを最小限に抑えた「アン・オーク(Un-oaked)」がある。後者はフレッシュな柑橘とミネラルが前面に出た清潔感のある白で、食中酒として抜群だ。
ソーヴィニヨン・ブランはエルギンの霧が生むグレープフルーツとエルダーフラワー、フレッシュな草の香りが印象的。ニュージーランドと異なる、より内省的で複雑なスタイルだ。

代表ワイン
・Catherine Marshall Elgin Pinot Noir(繊細で透明感ある造り)
・Catherine Marshall Chardonnay
・Catherine Marshall Sauvignon Blanc
・Catherine Marshall Pinot Gris(珍しい品種も手がける)
Stellenrust(ステレンラスト)

「ステレンボッシュの休息地」を意味するステレンラストは、ステレンボッシュのヘルダーバーグ山麓に位置するジュベール家の農場だ。家族経営の老舗で、南アフリカのカジュアルなワイン好きには知られた名前だが、近年プレミアムラインの充実が国際的な評価向上につながっている。
ここの最大の武器は古木のシュナン・ブランだ。樹齢50〜70年の古木ブッシュ・ヴァインから造られる「タイムレス・シュナン・ブラン(Timeless Chenin Blanc)」は、スタイル的にはアリステアやデイビッド&ナディアとは異なりより果実感豊かだが、古木ならではの凝縮感と複雑さを持つ。蜜がけのりんごと黄桃、しっとりとした質感が印象的だ。
ピノタージュも重要な品種だ。カノンコップほど力強くはないが、より繊細でエレガントなアプローチで造られており、ピノタージュに対する偏見を持つ人にとっては入門として最適だ。熟したチェリーとダークプラム、スパイスのニュアンスが心地よく続く。

訪問時は大ファミリーでの夕食スタイルのテイスティングに参加した。家族が代々守ってきた農場の温かい雰囲気が、ワインの味わいをより豊かにしていた。

代表ワイン
・Stellenrust Timeless Chenin Blanc(古木由来の傑作)
・Stellenrust Pinotage(エレガントなスタイル)
・Stellenrust Cabernet Sauvignon
・Stellenrust 54 Barrel Chenin Blanc(プレミアムライン)
Raats(ラーツ)

ブルワー・ラーツは南アフリカのワイン界で最も情熱的な職人のひとりだ。「カベルネ・フランとシュナン・ブランがわたしのすべてだ」と公言し、この2品種に人生をかけている。
ステレンボッシュのボットマスコップ(Bottelary)とステレンボッシュ・バレーに畑を持ち、カベルネ・フランに関しては南アフリカで最も深い理解を持つ醸造家と評される。
「MRドゥ・コンポステラ(MR de Compostella)」はカベルネ・フランを中心にメルローをブレンドしたフラッグシップ赤ワインで、南アフリカのカベルネ・フランのベンチマークとされる。スミレとなめし革、赤いベリー、グラファイトの複雑なアロマ。口に含むと、ロワールのシノンよりもリッチで濃密だが、カベルネ・フランのエレガンスは失われていない。長い余韻の後に現れるハーブのニュアンスが心地よい。
「オリジナル・シュナン・ブラン(Original Chenin Blanc)」は南アフリカの古木シュナン・ブランの最高表現のひとつだ。樹皮のような野生の酵母の香り、蜜とオレンジの皮、塩味を帯びたミネラル感。飲むたびに何かを発見できるワインだ。

ラーツのテイスティングは予約が必要で、小さなグループでのみ受け付けている。ブルワー本人が解説してくれた場合、カベルネ・フランへの情熱が言葉から溢れ出す。ワインと醸造家が完全に一致した、稀な体験だ。
代表ワイン
・Raats MR de Compostella(カベルネ・フラン主体のフラッグシップ)
・Raats Original Chenin Blanc(古木由来の傑作)
・Raats Old Vine Chenin Blanc
・Raats Family Wines Cabernet Franc
DAY 5:デイビッド&ナディア、シティ・オン・ア・ヒル、グレネリー
David & Nadia(デイビッド&ナディア)

デイビッド・サディはエベン・サディ(南アフリカで最も有名な醸造家のひとり)と同じサディ家の人物だ。妻のナディアとともにスワートランドで古木のシュナン・ブランを専門に造る生産者として、2010年代後半から急速に国際的な評価を高めている。
スワートランドはケープタウンから北へ約70km。「黒い大地」を意味するこの産地は、かつて麦畑と放牧地だった荒涼とした場所だ。夏は35〜40℃に達することもある過酷な気候だが、1950〜70年代に植えられた古木のシュナン・ブランが今も残っており、灌漑なしのドライファーミングで育てられた果実は極めて凝縮している。
デイビッド&ナディアが最もこだわるのは、土壌の違いによるシュナン・ブランの表情の違いだ。スワートランドにはシスト(頁岩)と花崗岩の2つの主要土壌があり、それぞれから全く異なるキャラクターのシュナン・ブランが生まれる。
「シスト土壌のシュナン・ブラン(Skaliekop)」は塩味を帯びたミネラルと柑橘の皮の風味が前面に出る。引き締まった酸と長い余韻。飲み込んだ後に岩塩を舌に乗せたような感覚が残る。「花崗岩土壌のシュナン・ブラン(Hoë-Steen)」は果実感がより豊かで、スパイスと花のアロマが複雑に絡み合う。
フラッグシップの「デイビッド&ナディア・シュナン・ブラン」はさまざまな区画の古木をブレンドしたもので、土壌の個性を超えた深みと複雑さを持つ。これを飲んで「シュナン・ブランがこんなに奥深い品種だったのか」と思い直した人は多いはずだ。


代表ワイン
・David & Nadia Chenin Blanc(フラッグシップ)
・David & Nadia Skaliekop(シスト土壌・単一区画)
・David & Nadia Hoë-Steen(花崗岩土壌・単一区画)
・David & Nadia Plat’bos(古木ブレンド)
City on a Hill(シティ・オン・ア・ヒル)

「丘の上の街」を名のるこのワイナリーは、ステレンボッシュのボットマスコップ地区の高台に位置する。醸造家ニール・グロブラーが少量ずつ丁寧に手がけるアルティザン(職人型)ワイナリーで、国際的には知名度が高くないが、南アフリカの熱心なワイン愛好家の間では評価が定まっている。
ニールのアプローチは「テロワールを裸にする」ことだ。派手な新樽の風味や過剰な濃縮を避け、土地と品種の本質を透明に映し出すことを優先する。それゆえ、最初の一口は地味に感じることがある。しかし2杯目、3杯目と飲み進めるうちに、その複雑さと奥行きに気づく。
シュナン・ブランとシラーが主要品種で、ボットマスコップの粘土質土壌から育つシラーはローヌのコルナスを思わせる塩気と鉱物感に満ちたスタイルだ。
少量生産のため入手が難しく、ワイナリー直売かケープタウンの一部のワインショップでしか手に入らない。「隠れた名品」と言える存在だ。
代表ワイン
・City on a Hill Chenin Blanc(ボットマスコップの土壌を映す)
・City on a Hill Syrah(ローヌスタイルの傑作)
・City on a Hill White Blend
・City on a Hill Grenache Noir
Glenelly(グレネリー)

ここには特別な歴史がある。オーナーのメイ・ドゥ・ランクサン(May de Lencquesaing)は、かつてボルドーのメドック格付け2級「ピション・バロン(現:ピション・コントゥス)」のオーナーだった人物だ。40年以上ボルドーの名醸造を率いた後、70代にして南アフリカのステレンボッシュに新天地を求め、2003年にグレネリー・エステートを購入した。

「まだワインを造ることが楽しい。新しいテロワールで自分に何ができるか見てみたかった」とメイは語ったという。その情熱が生んだのが「レディ・メイ(Lady May)」だ。カベルネ・ソーヴィニヨン主体のボルドーブレンドで、ステレンボッシュのヘルダーバーグ産。ピション・バロン時代のフランス的エレガンスと、南アフリカの太陽が育てた濃縮した果実感が組み合わさった唯一無二のワインだ。
「グラス・コレクション(Glass Collection)」シリーズはより親しみやすい価格帯で、シャルドネ、メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨンをラインアップする。グラスのボトルデザインが美しく、ギフトにも向いている。

ワイナリーはフランスのシャトーを思わせる整然とした石造りの建物で、訪問した南アフリカのワイナリーの中で最もヨーロッパ的な空気があった。敷地内のレストランはケープ料理にフレンチの技法を加えたメニューで評判が高い。


代表ワイン
・Glenelly Lady May(ボルドーブレンドのフラッグシップ)
・Glenelly Grand Vin de Glenelly(セカンドライン)
・Glenelly Glass Collection(アクセシブルなシリーズ)
・Glenelly Estate Reserve Chardonnay
DAY 6:コンスタンシア・グレン、ロングリッジ — 旅の締めくくり
コンスタンシア:南アフリカ最古のワイン産地

コンスタンシアはケープタウン市内の南東、テーブルマウンテン国立公園に隣接する丘陵地帯だ。ここは南アフリカで最も歴史の古いワイン産地で、1685年にオランダ東インド会社の総督シモン・ファン・デア・ステルが設立した農場「コンスタンシア」に起源を持つ。
18世紀には甘口デザートワイン「ヴァン・ドゥ・コンスタンス」が欧州の王族に珍重され、ナポレオンが流刑中のセントヘレナ島で毎日この甘口ワインを所望したという話は有名だ。
現代のコンスタンシアは甘口ワインよりも辛口の白ワイン、特にソーヴィニヨン・ブランで知られる。大西洋に面した半島の東側斜面に位置し、コンスタンシア谷から流れ込む涼しい空気がブドウを守る。花崗岩と砂岩の混合土壌が、ここならではのフィネスを生む。
Constantia Glen(コンスタンシア・グレン)

コンスタンシア谷の最上部、標高200〜350mに位置するコンスタンシア・グレンは、2000年に設立された比較的新しいワイナリーだ。しかし短い歴史にもかかわらず、コンスタンシアのソーヴィニヨン・ブランとボルドーブレンドで南アフリカトップクラスの評価を得ている。
「ファイブ(Five)」はソーヴィニヨン・ブランにセミヨン、マスカデル、ソーヴィニヨン・グリ、ヴィオニエを加えた5品種のブレンドで、コンスタンシア・グレンの白のフラッグシップだ。単一品種では出せない複雑さを持ちながら、コンスタンシアの清潔な酸と鮮度がしっかりと骨格を作っている。グレープフルーツ、白桃、エルダーフラワー、わずかなスモーキーなミネラル感が重なる。
「スリー(Three)」はボルドーブレンドの赤で、カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フラン、メルローの3品種から造られる。コンスタンシアでボルドー品種の赤を造ることはそれほど一般的ではないが、山の標高と海風の影響を受けた畑は、スレートと鉛筆削りのような独自のミネラル感をこの赤ワインに与えている。

ワイナリーは谷の奥まった場所にあり、テイスティングテラスからはコンスタンシア谷全体が見渡せる。コンスタンシアの豊かな緑と遠くの山の景色を見ながら飲む「ファイブ」は格別だった。

代表ワイン
・Constantia Glen Five(5品種ブレンドの白・フラッグシップ)
・Constantia Glen Three(ボルドーブレンド赤)
・Constantia Glen Two(ソーヴィニヨン・ブランとセミヨンのブレンド)
・Constantia Glen Sauvignon Blanc(単一品種)
Longridge(ロングリッジ)

ステレンボッシュのヘルダーバーグ山麓に位置するロングリッジは、南アフリカで最も幅広く親しまれているワイナリーのひとつだ。アクセシブルな価格帯から上質なプレミアムラインまで幅広い品揃えを誇り、南アフリカのワインの入門として多くの人が最初に出会う名前でもある。
しかしロングリッジをカジュアルブランドとして片付けるのは早計だ。プレミアムラインの「ケープ・タウン・リザーブ(Cape Town Reserve)」は、シュナン・ブラン、カベルネ・ソーヴィニヨン、シラーとも国際品評会で安定した高評価を得ており、コストパフォーマンスの高さは南アフリカでも群を抜く。
「エコー・リザーブ・シュナン・ブラン(Echo Reserve Chenin Blanc)」は古木のシュナン・ブランから造られる。洋梨と柑橘の蜜、生姜のニュアンスに、きれいな酸とほどよいコクが加わる。価格を考えると信じられないクオリティだ。

「バランス・シュナン・ブラン(Balance Chenin Blanc)」はロングリッジのエントリーラインだが、それでも十分においしい。日本のレストランでこのレベルの白ワインを頼めば5,000円以上するはずだが、南アフリカではボトルで200ランド(約1,500円)程度で手に入る。

6日間のワイン旅の締めくくりにロングリッジを選んだのは偶然ではない。プレミアムから手頃な価格まで、南アフリカワインの懐の深さを改めて実感したかったからだ。ここでのテイスティングでグラスを傾けながら、この旅で出会った16のワイナリーのワインが次々と蘇ってきた。
代表ワイン
・Longridge Echo Reserve Chenin Blanc(古木由来のプレミアムライン)
・Longridge Cape Town Reserve Cabernet Sauvignon
・Longridge Cape Town Reserve Syrah
・Longridge Bay View(エントリーラインでも高コスパ)

第4産地:スワートランド — 南アフリカのワイン革命の震源地
地形・気候・土壌
ケープタウンから北へ約70km。スワートランドは「黒い大地」を意味する。かつて麦畑と放牧地が広がるだけだった荒涼としたこの地に、2000年代以降、南アフリカのワイン界で最も才能ある若い醸造家たちが集まり、世界が驚くワインを造り始めた。
スワートランドの気候は南アフリカのワイン産地の中で最も過酷だ。夏の最高気温は35〜40℃に達することも珍しくない。降水量は年間300〜400mmと少なく、多くの畑では灌漑なしで栽培する「ドライファーミング」が行われている。
この厳しい条件が、独特のワインスタイルを生む。水ストレスを受けたブドウは根を深く伸ばし、地中深くのミネラルを汲み上げる。古木のブッシュ・ヴァインはそれ自体で水分調節する能力を持つ。少ない収量で生まれる果実は凝縮しており、通常の産地では得られない深みを持つ。
スワートランドの土壌はシスト(頁岩)と花崗岩の二系統に大きく分かれる。シストの上で育ったシュナン・ブランは塩味を帯びたミネラルと柑橘の皮の風味を持ち、花崗岩土壌のグルナッシュはフレッシュな赤い果実と白コショウのニュアンスを見せる。
ワイナリー11:Sadie Family Wines(サディ・ファミリー・ワインズ)
南アフリカのワイン界で最も影響力のある醸造家、エベン・サディが手がけるワイナリーだ。「南アフリカのルフロワ」という称号すら耳にするが、エベン自身はそういった比較を嫌う。「わたしはスワートランドのテロワールを表現したいだけだ」と彼は言う。
エベンが2000年にリリースした最初のワイン「コロンビア」(現在の「パロカッテ」)は、スワートランドの古木シュナン・ブランとさまざまな品種のブレンドで、当時の南アフリカワイン界に衝撃を与えた。以来、彼のワインは世界中のコレクターが争って入手しようとするカルト的な存在になっている。
フラッグシップのシリーズ「オールド・ヴァイン・シリーズ」は、樹齢50〜100年以上の古木が育つスワートランドとオークバレー各地の畑を個別に醸造したワインだ。「パロカッテ」(シュナン・ブラン主体の白ブレンド)と「コルムス」(グルナッシュとシラー主体の赤ブレンド)が中心的なワインだが、各年ビンテージで数種の単一区画ワインも造られる。
醸造哲学は徹底した低介入主義だ。天然酵母のみによる発酵、SO2添加は最低限、清澄・フィルタリングなし。ワインはブドウ畑の完全な表現であるべきで、醸造家の介入は最小限にとどめるべきだという信念を守り続けている。
訪問は事前予約が必須で、少人数のグループでしか受け付けない。素朴な農家の作業場のようなセラーで、エベン本人がワインを開けてくれた。「コルムス」の深いルビー色、野生のブルーベリーと鉄のような鉱物感、なめらかで緻密なタンニン — これは紛れもなく世界最高水準の赤ワインだ。
代表ワイン
・Sadie Palladius(白ブレンドのフラッグシップ、入手困難)
・Sadie Columella(赤ブレンドのフラッグシップ)
・Sadie Old Vine Seriess 各種(単一区画の白・赤)
・Sequillo(ネゴシアンライン、比較的入手しやすい)
ワイナリー12:Mullineux & Leeu Family Wines(マリノー・アンド・リュー・ファミリー・ワインズ)
クリスとアンドレア・マリノーの夫婦チームが手がけるワイナリーで、スワートランドの若き革命を担う中心的な存在だ。2007年の創業以来、「デカンター・ウーマン・イン・ワイン・オブ・ザ・イヤー」など国際的な賞を数多く受賞し、今やスワートランドの顔となっている。
マリノーがもっとも情熱を注ぐのはシュナン・ブランだ。スワートランドのシスト土壌と花崗岩土壌それぞれで育てた古木のシュナン・ブランを個別に醸造し、土壌の違いをワインで表現することに挑戦している。「シスト土壌のシュナン・ブランは塩気とミネラルが前面に出る。花崗岩土壌は果実とスパイスが豊か。同じ品種でも全く別のワインになる」とクリスは言う。
「スコルゼネラ」はそのシスト土壌の古木シュナン・ブランの最高表現で、南アフリカの白ワインとしてトップクラスの評価を受ける。黄色いリンゴ、オレンジの皮、ジンジャー、白い花のアロマに、引き締まったミネラルと長い余韻が続く。
赤ワインではシラーとシスト・シリーズが評価高い。スワートランドのシラーは冷涼な産地のそれとは異なり、より濃厚で胡椒のスパイシーさが際立つが、マリノーはそこに洗練されたフランスのセンスを加味している。
代表ワイン
・Mullineux Old Vines White(シュナン・ブラン主体)
・Mullineux Schist Syrah(スワートランドのシスト土壌から)
・Mullineux Granite Syrah
・Leeu Passant(南アフリカ全域からのブレンドシリーズ)
ワイナリー13:AA Badenhorst Family Wines(AAバデンホースト・ファミリー・ワインズ)
スワートランドの革命を語るとき、エベン・サディと並んで必ず名前が挙がるのがアディ・バデンホーストだ。2008年に叔父のハニー・バデンホーストとともに始めた家族経営のワイナリーで、スワートランドの「ナチュラルワイン」ムーブメントの先駆者のひとりだ。
農場「クライン・パパゴイ」は19世紀に建てられた石造りのセラーが今も使われており、その素朴な佇まいが哲学を体現している。電力はソーラーパネルで賄い、ブドウ畑には化学肥料も除草剤も使わない。アフリカの自然に寄り添うことが最善のワイン造りだという確信がここにある。
「セリェールズ・ダクゴ(スワートランドの兄弟)」と呼ばれる2本のブレンドワインは、アディとハニーの兄弟を象徴する。「ハニー・バジャー・ホワイト」はさまざまな品種の古木をブレンドした白で、複雑で個性的な風味が楽しめる。「ハニー・バジャー・レッド」はグルナッシュ、シラー、シンソーのブレンドで、野生的で泥臭い、アフリカの大地を感じさせるワインだ。
テイスティングは農場の豚の飼育小屋を改装したユニークなスペースで行われる。世界中からのワイン愛好家や醸造家が巡礼のように訪れるこの場所は、スワートランドのカルチャーを体現している。
代表ワイン
・AA Badenhorst Secateurs Chenin Blanc(コストパフォーマンス抜群)
・AA Badenhorst Funky White(ブレンド白)
・AA Badenhorst Funky Red(ブレンド赤)
・AA Badenhorst Caperitif(アペリティフスタイルのリキュールワイン)
第5産地:ウォーカー・ベイ — 南アフリカのピノ・ノワール聖地
地形・気候・土壌
ケープタウンから東へ150km、インド洋に面したウォーカー・ベイはヘルマヌスの町を中心に広がる産地だ。7月〜11月にかけてザトウクジラが湾に入ってくることで有名なこの地は、しかし近年はピノ・ノワールとシャルドネの銘産地として世界的に知られるようになってきた。
インド洋とアグラス海流の影響を受けるウォーカー・ベイの気候は、アフリカ大陸にあることを忘れさせるほど冷涼だ。夏の平均気温は22〜24℃と、ステレンボッシュより3〜4℃低い。海からの強風も吹き付け、ブドウの病害を防ぐとともに成熟をゆっくりにする。
これがピノ・ノワールに理想的な環境だ。ピノ・ノワールは日照と温度に繊細に反応する品種で、暑すぎると過熟してジャムのようになり、冷涼すぎると酸が強くなりすぎる。ウォーカー・ベイの夏は、ピノ・ノワールがゆっくりと完熟するための絶妙な温度帯を維持している。
土壌は頁岩と花崗岩が交互に現れ、場所によって粘土を多く含む深い層がある。ハーメルス・フード(天国の山)と呼ばれる産地周辺の丘には古い頁岩が露出し、このシスト土壌が鉄のようなミネラル感を生む。
ワイナリー14:Hamilton Russell Vineyards(ハミルトン・ラッセル・ヴィンヤーズ)
南アフリカのピノ・ノワールとシャルドネの質を世界に証明したワイナリーとして、ハミルトン・ラッセルは別格の存在だ。1975年にティム・ハミルトン・ラッセルがケープのワイン産地の中でも最も南に位置するヘメル・アン・アルデ(「天国と地球」の意)の谷を購入し、ピノ・ノワールとシャルドネだけを造ることを決めた。
当時の南アフリカでこの選択は奇異に映った。ピノ・ノワールはブルゴーニュ以外ではほとんど成功していなかったし、ウォーカー・ベイはまだ無名の辺境の地だった。それでもティムは信念を持って進んだ。
現在は息子のアンソニー・ハミルトン・ラッセルが経営を引き継ぎ、父の哲学を守りながら品質を高め続けている。年産わずか6万本という少量生産を頑として守り、単一畑のみからの収穫にこだわる。
ハミルトン・ラッセルのピノ・ノワールは、赤いチェリーとラズベリー、ドライローズの花びら、スパイス、泥を感じさせる複雑な香り。口に含むと、繊細だが骨格のしっかりしたタンニンとともに、長い余韻が広がる。南アフリカの太陽を感じながらも、ブルゴーニュの節度と精緻さを合わせ持つ、唯一無二のスタイルだ。
シャルドネも同様に傑出している。乳酸発酵と熟成によるバターとヴァニラのニュアンスに、きれいな柑橘系酸が加わり、複雑さと清潔感が共存する。
代表ワイン
・Hamilton Russell Pinot Noir(南アフリカ最高のピノ・ノワール)
・Hamilton Russell Chardonnay
・Southern Right Pinotage(セカンドワイナリー、高コスパ)
・Southern Right Sauvignon Blanc
ワイナリー15:Bouchard Finlayson(ブシャール・フィンレイソン)
ハミルトン・ラッセルと同じヘメル・アン・アルデ谷に位置するブシャール・フィンレイソンは、1989年にピーター・フィンレイソンとブルゴーニュの名醸造家ポール・ブシャールのパートナーシップによって設立された。ブルゴーニュの技術と南アフリカのテロワールを融合させることが当初の設立理念だ。
現在もブシャール家との関係を維持しながら、フィンレイソン家が経営する。最高峰の「ガルピン・ピーク・ティエン・ランド・ピノ・ノワール」は、畑の中でも最高区画「ガルピン・ピーク」からの単一畑で、ブルゴーニュの最上クリュに匹敵する深みと複雑さを誇る。
スワートランドやステレンボッシュと違い、ブシャール・フィンレイソンではイタリア系の品種にも力を入れている。「サンジョヴェーゼ」「ネッビオーロ」の南アフリカ版として位置づけられる「ハンニバル」は、サンジョヴェーゼ、ネッビオーロ、バルベラ、ピノ・ノワール、シラーのブレンドという独創的なワインで、イタリアとフランスと南アフリカが交差する個性的な一本だ。
代表ワイン
・Bouchard Finlayson Tête de Cuvée Galpin Peak Pinot Noir(最高峰)
・Bouchard Finlayson Galpin Peak Pinot Noir
・Bouchard Finlayson Hannibal(独創的マルチブレンド)
・Bouchard Finlayson Chardonnay Kaaimansgat
ワイナリー16:Creation Wines(クリエーション・ワインズ)
ウォーカー・ベイの西側、ヘルマヌスの町から西に向かったカレバワー山の斜面にクリエーション・ワインズはある。スイス人醸造家のヨアヒム・スターンとその妻ジョルジュがウォーカー・ベイの可能性を信じて2002年に設立した。
クリエーションを特別なものにしているのは、フード・ペアリングに対する徹底したこだわりだ。ここのテイスティングは単なるワインの試飲ではなく、各ワインに合わせた小皿料理とともにペアリングを体験するという方式を取っている。「ワインは食とともにあってこそ完成する」という哲学の実践だ。
ピノ・ノワールのバリエーションが豊富で、「ザ・ジェネシス・ピノ・ノワール」「アート・オブ・クリエーション・ピノ・ノワール」とレベルごとに分かれた3段階の品揃えがある。トップのアート・オブ・クリエーションは、ウォーカー・ベイの中でも特に冷涼な単一区画の古木から造られる傑作で、ブルーフルーツとラズベリー、鉄とスミレの花の入り混じる複雑な香りが印象的だ。
シャルドネも高い評価を受けており、ミネラルと柑橘が前面に出た「クリスプ」なスタイルと、ボリューム感ある「リッチ」なスタイルを造り分けている。
テイスティングを終えた後、山の斜面から見下ろすウォーカー・ベイの景色が心に残った。午後の光が海面に反射し、遠くにクジラの潮吹きが見えた。このワインはこの景色の中で飲むためにある、と思った。
代表ワイン
・Creation Art of Creation Pinot Noir(フラッグシップ)
・Creation Genesis Pinot Noir
・Creation Art of Creation Chardonnay
・Creation Syrah
・Creation Viognier
南アフリカで押さえておくべき主要品種
シュナン・ブラン(Chenin Blanc)— 南アフリカの魂
南アフリカで最も多く栽培されている品種がシュナン・ブランだ。フランスのロワール地方原産で、世界的にはニュージーランドやアメリカで大量生産のデイリーワインに使われることが多い。しかし南アフリカでは近年、古木シュナン・ブランの偉大さを世界に伝える動きが急加速している。
最大の武器は古木の存在だ。1950〜70年代に植えられた50〜70年以上の古木が今も多く残っており、樹齢が高くなるほど根が深く伸びて土壌のミネラルを豊かに汲み上げる。今回の旅で訪れたアリステア、ラーツ、デイビッド&ナディア、ステレンラスト、ロングリッジのすべてが古木シュナン・ブランをワインの中心に置いていることは、偶然ではない。
スタイルは産地によって大きく異なる。スワートランドの古木は塩のようなミネラル感と柑橘の皮の風味が特徴。ステレンボッシュは豊かで果実感の強いスタイル。エルギンはよりクリーンで酸が高い。コンスタンシアは石灰岩質土壌由来のフィネスを持つ。
ピノタージュ(Pinotage)— 南アフリカのオリジナル品種
1925年にステレンボッシュ大学の育種学者が作出した南アフリカ固有の交配品種(ピノ・ノワール×サンソー)。かつては「バナナとペイントシンナーの匂い」と酷評されることが多かったが、これは醸造技術の問題だった。現代のピノタージュは熟したプラム、チョコレート、コーヒーの複雑なアロマを持つ力強い赤ワインで、カノンコップが世界最高の解釈者として知られる。
カベルネ・フラン(Cabernet Franc)— ラーツが示した可能性
今回の旅でもっとも驚かされたのが、ラーツのカベルネ・フランだ。ロワールのシノンでしか真剣に評価されなかったこの品種が、ステレンボッシュのボットマスコップで南アフリカ固有の表現を手に入れている。スミレとなめし革、赤い果実のアロマ、細かいタンニンと長い余韻。ボルドーのカベルネ・ソーヴィニヨンとは全く異なるエレガンスだ。
シラー(Syrah)— スワートランドで開花
ブーケンハウツクルーフ、シティ・オン・ア・ヒルが見せたように、南アフリカのシラーは北ローヌの影響を受けた生産者が多い。スワートランドのシスト土壌で育つシラーはオリーブ、黒コショウ、スモークの複雑なアロマと引き締まったタンニンを持ち、オーストラリアのシラーズとは全く別のスタイルだ。
ソーヴィニヨン・ブラン(Sauvignon Blanc)— コンスタンシアの個性
コンスタンシア・グレンが見せたように、コンスタンシア産のソーヴィニヨン・ブランはニュージーランドほど主張は強くなく、ロワールより果実感があり、穏やかでバランスの取れたスタイルが特徴だ。エルギンのソーヴィニヨン・ブランはより緑の香りとミネラル感が際立つ。
旅のアクセスと実践情報
日本からのアクセス
日本からケープタウンへは直行便がない。今回はシンガポール航空でシンガポール経由、ヨハネスブルク(O.R.タンボ国際空港)でトランジットしてケープタウン入りした。日本〜シンガポール約7時間、シンガポール〜ヨハネスブルク約10時間、ヨハネスブルク〜ケープタウン約2時間。乗り継ぎ待ちを含めると合計20時間以上の旅になる。
遠い。しかし到着した瞬間、その疲れはすべて消える。それだけの場所がケープタウンだ。
主なルートは3通り。シンガポール航空でシンガポール乗り継ぎ、エミレーツ航空でドバイ乗り継ぎ、カタール航空でドーハ乗り継ぎ。どのルートもヨハネスブルクかケープタウンへの乗り継ぎが必要で、南アフリカ国内線はSouth African AirwaysかFlyafriqが主要な便を運航している。
移動
南アフリカは左側通行で、日本の運転免許証(国際免許証を取得)で運転できる。レンタカーが最も自由度が高い。ケープタウン国際空港でレンタカーを借り、ステレンボッシュを拠点にするのが今回の旅のスタイルだった。
幹線道路の状態は良好だが、一部の農道は未舗装で4WDが望ましい場合もある。ナビはGoogle MapsとWazeが南アフリカでも問題なく機能した。飲酒運転の罰則は厳しいので、ドライバーは必ず飲まない役を立てるか、ワインツアーの専用バスを利用すること。
最適なシーズン
3〜5月(南半球の秋)と9〜11月(春)がおすすめだ。3〜5月は収穫直後で畑が美しく、醸造家と話しやすい。9〜11月はケープ・フラワーが咲き乱れ、ウォーカー・ベイではザトウクジラが見られる。12〜2月の夏はブドウ畑が最も緑豊かだが、スワートランドは40℃を超える日もある。
ワイナリー予約について
今回訪れた16ワイナリーのうち、事前予約なしで入れたのはカノンコップ、ラステンバーグ、ブーケンハウツクルーフ、ポール・クルーバー、ステレンラスト、コンスタンシア・グレン程度だ。アリステア、ヴィラフォンテ、ジュリアン・スカール、ラーツ、デイビッド&ナディアなどは必ず事前連絡が必要で、特にアリステアとデイビッド&ナディアは数か月前からの予約が求められる。旅行計画の最初の段階でメールで問い合わせておくことを強くすすめる。
| ワイナリー | 産地 | 要予約 | 主要品種・スタイル |
|---|---|---|---|
| アリステア | スワートランド他 | 必須(数か月前) | 古木シュナン・ブラン |
| ヴィラフォンテ | ステレンボッシュ | 必須 | ボルドーブレンド赤 |
| カノンコップ | ステレンボッシュ | 推奨 | ピノタージュ、ボルドー |
| ラステンバーグ | ステレンボッシュ | 不要 | カベルネ、シャルドネ |
| アタラクシア | エルギン | 必須 | シャルドネ、ピノ・ノワール |
| ブーケンハウツクルーフ | フランシュック | 推奨 | シラー、セミヨン |
| ポール・クルーバー | エルギン | 不要 | ピノ・ノワール、シャルドネ |
| ジュリアン・スカール | エルギン | 必須 | シャルドネ、ピノ・ノワール |
| キャサリン・マーシャル | エルギン | 推奨 | ピノ・ノワール、シャルドネ |
| ステレンラスト | ステレンボッシュ | 不要 | シュナン・ブラン、ピノタージュ |
| ラーツ | ステレンボッシュ | 必須 | カベルネ・フラン、シュナン・ブラン |
| デイビッド&ナディア | スワートランド | 必須(数か月前) | 古木シュナン・ブラン |
| シティ・オン・ア・ヒル | ステレンボッシュ | 必須 | シュナン・ブラン、シラー |
| グレネリー | ステレンボッシュ | 推奨 | ボルドーブレンド、シャルドネ |
| コンスタンシア・グレン | コンスタンシア | 不要 | ソーヴィニヨン・ブランブレンド |
| ロングリッジ | ステレンボッシュ | 不要 | シュナン・ブラン、カベルネ |
16のワイナリーを巡って感じたこと
9日間、16のワイナリー。100本近いワインを試した。2020年2月23日、ケープタウンの空港に向かいながら頭の中でそれぞれのワインを辿った。
アリステアのカートロジーが持っていた、あの静けさ。聴くワイン、という言葉が頭に浮かんだ。ラーツのMRドゥ・コンポステラが見せた、カベルネ・フランの可能性。デイビッド&ナディアのシスト土壌のシュナン・ブランが教えてくれた、同じ品種でも土が変われば全く別のワインになるという事実。グレネリーのレディ・メイが体現した、ボルドーのエスプリと南アフリカの太陽の幸福な出会い。
南アフリカのワイン産地は、フランスやイタリアと比べてまだ若い。しかし350年の歴史を持ち、アパルトヘイト後の30年でそのポテンシャルが一気に開花した。さらに2000年代以降、スワートランド・レヴォリューションと呼ばれる若い醸造家たちの動きが、南アフリカワインのアイデンティティを根底から変えつつある。
「南アフリカらしいワインとは何か」を問い続ける醸造家たちの姿勢が、この旅を通じてひとつの答えになった。古木のシュナン・ブランだ。ロワールの模倣でも、ニュージーランドの対抗でもなく、南アフリカの古い樹が積み重ねてきた時間と土壌の記憶を、ワインに刻む。それが今の南アフリカワインの最も誠実な表現だと思う。
日本からのアクセスは容易ではない。20時間以上の移動時間、乗り継ぎの煩雑さ。しかしそれにあり余る体験が待っている。ボルドーもブルゴーニュも知っている人に、次の旅先として南アフリカを強くすすめたい。
テーブルマウンテンを眺めながら飲む南アフリカワインは、ほかのどんな場所でも再現できないものだ。
よくある質問
日本からケープタウンへはどうやって行きますか?
日本からケープタウンへは直行便がなく乗り継ぎが必要です。シンガポール航空でシンガポール経由、エミレーツ航空でドバイ経由、カタール航空でドーハ経由が主なルートで、いずれもヨハネスブルク(O.R.タンボ国際空港)でのトランジットが必要です。総移動時間は乗り継ぎ待ちを含めて20〜25時間程度。遠いですが、到着した瞬間にその苦労を忘れる景色が待っています。
南アフリカのワインランドはケープタウンからどのくらいの距離ですか?
主要産地はケープタウンから車で30分〜2時間の範囲に集中しています。コンスタンシアは市内から約20分、ステレンボッシュは約40分、フランシュックは約1時間、スワートランドは約1時間、エルギンは約1時間です。ケープタウンを拠点にして各産地に日帰りで訪問できます。
南アフリカのワインで最も注目すべき品種は何ですか?
南アフリカで最も注目すべきはシュナン・ブランです。1950〜70年代に植えられた古木が世界でも有数の規模で残っており、アリステア、デイビッド&ナディア、ラーツなどが古木シュナン・ブランで世界的な評価を得ています。南アフリカ固有品種のピノタージュ(カノンコップが最高峰)も外せません。冷涼地ではエルギンとウォーカー・ベイのピノ・ノワールが世界水準の品質を持ちます。
スワートランドが南アフリカのワイン革命の中心と言われるのはなぜですか?
2000年代以降、エベン・サディ、クリス・マリノー、アリステア、デイビッド&ナディアなど才能ある若い醸造家たちがスワートランドの古木シュナン・ブランや在来品種に注目し、低介入・テロワール志向のワイン造りを始めました。従来の「ボルドーのコピー」から脱却し、南アフリカの個性を前面に出したこの動きが「スワートランド・レヴォリューション」と呼ばれ、世界のワイン愛好家の注目を集めています。
テーブルマウンテンとボルダーズビーチのペンギンは一日で両方行けますか?
可能ですが、余裕を持った計画が必要です。テーブルマウンテンは午前中に行き(ロープウェイは朝8〜9時から運行)、その後ケープ半島を南下してボルダーズビーチへ向かうルートが一般的です。ケープポイントもこのルートで立ち寄れます。テーブルマウンテン〜ボルダーズビーチは車で約45分。ただしテーブルマウンテンは強風でロープウェイが運休することがあるため、複数日の滞在を推奨します。
TE travel 

