ハイウェイ29号線をオークヴィルまで走ると、白い漆喰のアーチが見えてきます。ロバート・モンダヴィ・ワイナリー。1966年の創業以来、ナパヴァレーのシンボルでありつづける場所です。ナパヴァレーが「世界のナパ」になった歴史をたどると、かならずこの人の名前に行き着きます。創業者ロバート・モンダヴィ。ナパヴァレーをつくった男と呼ばれる人物です。
わたしは2017年7月、イングルヌック、オーパスワンとまわったあと、この日の締めくくりにロバート・モンダヴィ・ワイナリーを訪れました。この記事では、実際の訪問体験とあわせて、モンダヴィという人物の物語を紹介します。ナパヴァレー全体のまわり方は5つのワイナリーをめぐった訪問記のまとめにまとめています。
このときのナパヴァレーの旅は動画にもまとめています(Take Travel)
ロバート・モンダヴィ — ナパヴァレーをつくった男
ロバート・モンダヴィ(1913〜2008)はイタリア系移民の家庭に生まれ、家業のチャールズ・クルーグ・ワイナリーで長年働いていました。転機は1965年。経営方針をめぐって弟と対立し、家族の会社を離れることになります。このとき52歳。多くの人が引退を考えはじめる年齢で、彼はゼロから自分のワイナリーを立ち上げる道を選びました。それが翌1966年に誕生したロバート・モンダヴィ・ワイナリーです。
彼が革命的だったのは、「カリフォルニアワインはフランスワインに匹敵できる」と公言し、それを実行に移したことです。フランスから醸造の知見を取り入れ、ステンレスタンクによる温度管理を導入し、畑ではぶどうのつくり方そのものを見直しました。当時のカリフォルニアワインは安いテーブルワインの代名詞でしたから、この宣言がどれほど大胆だったかは想像に難くありません。
1976年、パリで開かれたブラインドテイスティング「パリスの審判」でカリフォルニアワインがフランスの名醸を破ったとき、その土台にはモンダヴィが積み上げた20年がありました。1979年にはボルドーの名門ムートン・ロートシルトと共同でオーパスワンを設立。カリフォルニアとフランスの頂点が組むという、10年前にはありえなかった協業を実現させています。
訪問記 — 白いアーチをくぐる

スペイン・ミッション様式の白い建物と大きなアーチ。手前には彫刻を配した噴水(筆者撮影)
ロバート・モンダヴィ・ワイナリーの建物は、カリフォルニアの歴史的な教会建築を思わせるスペイン・ミッション様式です。白い漆喰の壁、赤茶色の瓦屋根、そして正面の大きなアーチ。ハイウェイからもよく見えるこのアーチは、ナパヴァレーでもっとも撮影されている建築のひとつだと思います。手前の広場には噴水があり、大きな石の彫刻が水を浴びていました。
アーチをくぐると視界が開けて、中庭の向こうにぶどう畑とマヤカマス山脈が見えます。建物が額縁になって、畑と山を一枚の絵のように切り取る。訪問者を迎えるための設計が隅々まで行き届いていて、「ワイナリーは人を迎える場所である」というモンダヴィの思想がそのまま形になっています。
To Kalon — ナパでもっとも名高い畑

ハイウェイ29号線沿いの「To Kalon Vineyard」の看板。この一帯がナパ最高の畑(筆者撮影)
ワイナリーの周囲に広がるのが、ナパヴァレーでもっとも名高い畑「To Kalon(トゥー・カロン)」です。ギリシャ語で「最高の美」を意味するこの畑は19世紀から知られた銘醸地で、モンダヴィは1966年の創業のときに、あえてこの畑のただ中にワイナリーを建てました。いいワインは畑から生まれる、という彼の信念がこの立地に表れています。
車で走っていると、線路脇に「ROBERT MONDAVI WINERY — TO KALON VINEYARD」と書かれた石の看板が現れます。背後には手入れの行き届いたぶどうの列がどこまでもつづき、その奥に山並み。ナパヴァレーらしい風景を一枚で切り取れる場所なので、写真好きの人はぜひ車を停めてみてください。
テイスティング体験

レザーのウィングチェアと樽のテーブルが置かれたラウンジ。創業者の写真が壁に並ぶ(筆者撮影)
テイスティングルームの手前のラウンジには、レザーのウィングチェアが並び、壁にはロバート・モンダヴィ本人の写真が飾られています。ワインを持つ晩年の姿、畑に立つ姿。ワイナリー全体が、創業者の物語を伝える記念館のような役割も果たしています。
テイスティングプログラムは複数あり、もっとも手軽なものなら代表的なワイン4〜5種を試せます。オークヴィルのカベルネ・ソーヴィニヨンを軸に、シャルドネやフュメ・ブランが並ぶ構成です。スタッフの解説がていねいで、初心者への目線があるのがこのワイナリーのいいところです。オーパスワンが「頂点を一杯で体験する場所」だとすれば、モンダヴィは「ナパワインの全体像を学べる場所」。この日は両方をはしごしたことで、ナパの奥行きが立体的に見えました。
フュメ・ブランには物語があります。当時「ソーヴィニヨン・ブラン」という品種名では売れなかった白ワインに、モンダヴィはロワールの銘醸地ポイイ・フュメにちなんだ「Fumé Blanc」という新しい名前を付けました。これが大ヒットし、カリフォルニアの白ワインの地位を変えたといわれます。ワインの中身だけでなく、伝え方まで発明した人でした。
ワインの特徴 — To Kalonの実力
フラッグシップは「To Kalon Vineyard Reserve Cabernet Sauvignon」。オークヴィルの豊かな果実味を素直に表現したスタイルで、黒系果実にタバコやチョコレートのニュアンスが重なり、タンニンはしっかりしているのに滑らかです。突出した個性で驚かせるより、バランスの高さで納得させるワインだと感じます。
現在は大手のコンステレーション・ブランズが所有していますが、To Kalonを頂点とする品質の追求はつづいています。手頃な価格帯のラインも広く流通しているので、日本のスーパーで見かけたラベルの「本店」を訪ねる、という楽しみ方もできます。

訪問情報(2026年時点)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | Robert Mondavi Winery(ロバート・モンダヴィ・ワイナリー) |
| 所在地 | 7801 St Helena Hwy, Oakville, CA 94562 |
| エリア | オークヴィルAVA(オーパスワンのほぼ向かい) |
| 予約 | 公式サイトから事前予約を推奨(週末は特に) |
| テイスティング料金の目安 | 40〜100ドル程度(プログラムによる) |
| アクセス | サンフランシスコから車で約1時間30分。ナパ市内から約20分 |
| 所要時間の目安 | 1.5〜2時間 |
夏にはワイナリー内の野外シアターで音楽フェスティバルが開かれます。ワイン・食・音楽・アートをひとつの場所で楽しんでもらうというモンダヴィの理想は、彼が亡くなったあともこうして受け継がれています。
訪問のヒント
おすすめは、午前中にモンダヴィでナパワインの基礎を体験し、午後に向かいのオーパスワンをはしごする組み合わせです。二つのワイナリーは道路を挟んでほぼ向かい合っていて、車なら数分。モンダヴィが育てたナパの土台と、モンダヴィがロートシルト男爵とともに到達した頂点を、同じ日に体験できます。
昼食は、車で数分のオークヴィル・グローサリー(1881年創業の老舗食料品店)でサンドイッチを買って済ませるのが定番です。テイスティングの合間に重い食事を挟まないほうが、午後のワインをしっかり味わえます。なお、夏のナパは日差しが強いので、水のボトルを車に常備しておくこともすすめます。
よくある質問
Q. ナパ初心者の1軒目に向いていますか?
向いています。受け入れ体制が整っていて、スタッフの解説もていねいなので、ナパヴァレーの入門として最適です。ここで基礎を学んでから、向かいのオーパスワンや近くのイングルヌックに進む順番をおすすめします。
Q. 予約は必要ですか?
公式サイトからの事前予約をすすめます。ウォークインで入れる場合もありますが、週末や収穫シーズンは席が埋まりやすいです。プログラムを選べるという意味でも、事前予約が確実です。
Q. To Kalonの畑は見学できますか?
上位のテイスティングプログラムには、畑やセラーをめぐるツアーが含まれるものがあります。畑そのものはワイナリーの周囲に広がっているので、敷地からその景色を眺めるだけでも価値があります。
Q. 子ども連れでも大丈夫ですか?
敷地は広く、建築や庭を楽しめるので家族連れの姿も見かけます。ただしテイスティングは大人向けの体験なので、ツアー系のプログラムに参加する場合は事前にワイナリーへ確認すると安心です。
まとめ — 歴史がそのまま建っている場所
ロバート・モンダヴィ・ワイナリーの魅力は、ワインのおいしさだけではありません。52歳で家族の会社を追われた男が、ゼロから立ち上げ、カリフォルニアワインの評価そのものを変えてしまった。その歴史の現場に、いまも当時のままの白いアーチが建っています。
ナパヴァレーを訪れるなら、最初の1軒はここがいいとわたしは思います。この谷で何が起きたのかを知ってからまわるナパは、知らずにまわるナパの何倍もおもしろくなるからです。
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