ナパヴァレーの旅で、どこに泊まるか。この選択は、ワイナリー選びと同じくらい旅の質を左右します。わたしが2017年7月のナパ旅で拠点にしたのは、ヨントヴィルの「ヴィラッジオ・イン&スパ(Villagio Inn & Spa)」。トスカーナ様式の低層の建物が庭と噴水を囲む、ぶどう畑のすぐそばの宿です。結論から言うと、この宿とヨントヴィルという町の組み合わせが、ナパの旅を何倍にも良くしてくれました。
ヴィラッジオはその後、2018年の大改装で「ホテル・ヴィラッジオ(Hotel Villagio)」と名前を変え、隣接するヴィンテージ・ハウスとあわせて「The Estate Yountville」という22エーカーの複合リゾートになっています。この記事は改装前の2017年の宿泊記ですが、立地とヨントヴィルという町の価値はいまも変わりません。ナパヴァレー全体のまわり方は5つのワイナリーをめぐった訪問記のまとめにまとめています。
このときのナパヴァレーの旅は動画にもまとめています(Take Travel)
ヴィラッジオとはどういう宿か

糸杉に囲まれた石の看板と噴水。イタリアの田舎の入口のような設え(筆者撮影・2017年当時)
ヴィラッジオは、ヨントヴィルの目抜き通りであるワシントン・ストリート沿いに立つリゾートホテルです。名前のとおりイタリアの村(ヴィラッジオ)を模した造りで、糸杉と噴水、テラコッタ色の屋根、庭を囲む低層の客室棟で構成されています。高層ホテルの利便性とは正反対の、「敷地の中を歩くこと自体が心地いい」タイプの宿です。

ロビー棟。アーチの前に彫像と花壇、刈り込まれた糸杉(筆者撮影)
チェックインのときに印象的だったのは、スパークリングワインのもてなしです。ナパの宿らしく、到着した客をまず泡で迎えてくれる。ロビーからつづく庭には噴水の水音が絶えず、この時点で「いい宿を選んだ」と確信しました。

客室 — 静かな棟とプライベートテラス

キングベッドの客室。窓には木のシャッター、椅子はウィングチェア(筆者撮影・2017年当時)
客室は広く、キングベッドにウィングチェア、木製シャッターの窓という落ち着いた設えでした。派手さより居心地を優先したインテリアで、ワイナリーを一日まわって戻ってきたときの「帰ってきた感」があります。現在のホテル・ヴィラッジオは全112室と22のスイートが2018年に全面改装され、より現代的なデザインになっています。

部屋のテラスで一杯。木のデッキの向こうは庭と緑(筆者撮影)
部屋にはプライベートテラスが付いていて、ここで飲む一杯が最高でした。昼間のテイスティングで買ってきたボトルを、夕方の涼しい風の中で開ける。ナパの宿泊は「飲んだあとに歩いて帰れること」「買ったワインをすぐ楽しめること」に価値があります。ヴィラッジオはその両方を満たしてくれました。
プールと朝の気球 — リゾートとしての時間

夕方のプール。オレンジのパラソルがこの宿のシンボルカラー(筆者撮影)
敷地にはプールがあり、夕方になると一日の観光を終えた宿泊客がゆったり過ごしています。ワイナリーめぐりは思った以上に体力を使うので、旅程に「プールで何もしない時間」を挟めるのは、リゾート型の宿ならではの贅沢です。スパも併設されていて、現在のThe Estate Yountvilleでは改装された大型スパが名物になっています。

早朝、ホテルの真上を熱気球が横切っていく(筆者撮影)
そして、ヨントヴィルの朝には名物があります。熱気球です。ヨントヴィルはナパヴァレーの気球ツアーの発着地のひとつで、風の穏やかな早朝、ホテルの真上を色とりどりの気球がゆっくり流れていきます。朝の庭でコーヒーを持って空を見上げる時間は、この宿で過ごした中でもいちばん記憶に残っている風景です。気球はすぐ隣のV Marketplaceから出発するツアー(Napa Valley Aloft)があるので、乗る側にまわることもできます。
朝食 — 泡ではじまる一日
ヴィラッジオの朝といえば、スパークリングワイン付きの朝食が名物でした。焼きたてのペストリーやフルーツの並ぶテーブルに、シャンパングラス。「朝から泡なんて」と思うかもしれませんが、ここはワインの谷です。気球が空を流れる朝、庭を眺めながらグラスを傾けると、これから畑をめぐる一日への期待が静かに高まっていきます。旅の朝食は「その土地の暮らしに入る儀式」なのだと、この宿が教えてくれました。
ちなみに滞在中の予定は、朝食の席で立てるのがおすすめです。ヨントヴィルはナパヴァレーの中央にあるので、北のセント・ヘレナ方面へ行く日も、南のカーネロス方面へ行く日も、朝食後すぐに動き出せます。

ヨントヴィル — 歩いて美食をめぐれる町

夕暮れのワシントン・ストリート。並木の下にレストランのテラス席がつづく(筆者撮影)
ヴィラッジオを勧めるいちばんの理由は、じつは宿そのものより立地です。ヨントヴィルは人口3,000人ほどの小さな町ですが、ここには世界的なレストランが集中しています。トーマス・ケラーのザ・フレンチ・ランドリー(ミシュラン3つ星)を筆頭に、同じケラーのブションやアド・ホック、フレンチのビストロ・ジャンティなど、星付きと人気店が徒歩圏に並ぶ。「人口あたりのミシュラン星の数が全米屈指」といわれる、美食の町です。
夕方、ワシントン・ストリートを歩くと、並木の下のテラス席がにぎわいはじめます。車を置いて、歩いてレストランに行き、ワインを楽しんで、歩いて帰る。ナパ市内やセント・ヘレナに泊まるとこの「徒歩の夜」はなかなか実現しないので、これだけでヨントヴィルに泊まる価値があります。食後に夜風の中を数分歩いて部屋に戻る時間まで含めて、この町のディナーだと思います。

V Marketplaceの案内板。チョコレート店・ギャラリー・気球ツアーなどが並ぶ(筆者撮影)
ホテルの隣には、1870年建造のワイン倉庫を改装したショッピングアーケード「V Marketplace」があります。チョコレートのコラー・ショコラティエ、ギャラリー、ブティック、そして気球ツアーの受付。朝の散歩から夜のディナーまで、滞在中に何度も行き来しました。
フレンチ・ランドリー — 「予約の取れない店」の前で


ザ・フレンチ・ランドリー。白いつるバラに覆われた石造りの建物の前では、記念写真を撮る人が絶えない(筆者撮影)
ヨントヴィルの名を世界に知らしめたのが、トーマス・ケラーのザ・フレンチ・ランドリー(The French Laundry)です。ミシュラン三つ星を長年守りつづける、アメリカ料理界の頂点のひとつ。もとは19世紀末に建てられた石造りの建物で、かつてフランス式の蒸気洗濯屋だったことが店名の由来です。世界でもっとも予約が取れないレストランのひとつとしても知られていて、席の争奪戦は数か月先まで及びます。
わたしたちも予約は取れませんでした。それでも夕暮れにこの店の前を通ると、白いバラに覆われた建物を眺めて写真を撮る人が次々と現れます。「いつかあの扉の中へ」と思わせる存在が町の真ん中にある。それだけでヨントヴィルの散歩は特別なものになります。

通りの向かいに広がるフレンチ・ランドリーの菜園。レストランで使う野菜やハーブがここで育つ(筆者撮影)
予約が取れなくても、楽しみ方はあります。店の向かいには、レストランのための菜園(カリナリー・ガーデン)が広がっていて、散歩がてら眺められるのです。夕方の光の中、整然と並ぶ野菜とハーブの畝の向こうに山並みが見える。三つ星の皿はこの土から始まっているのだとわかる、静かで豊かな風景でした。
ブション・ベーカリー — 朝はパンの香りに引き寄せられる
そして、ヨントヴィルの朝の楽しみがパン屋です。同じトーマス・ケラーが手がけるブション・ベーカリー(Bouchon Bakery)には、朝から地元の人と旅行者の列ができます。バターの香りが濃いクロワッサン、パン・オ・ショコラ、宝石のようなマカロン。ホテルから歩いて数分なので、朝の散歩の途中で買って、庭のベンチで食べる。この朝のパンが本当においしくて、滞在中の習慣になりました。三つ星のディナーには手が届かなくても、同じキッチンの哲学から生まれたパンなら数ドルで味わえます。
宿泊情報(2026年時点)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | Hotel Villagio(旧 Villagio Inn & Spa)— The Estate Yountville |
| 所在地 | 6481 Washington St, Yountville, CA 94599 |
| 規模 | 112室+スイート22室(2018年に全面改装) |
| 設備 | プール・スパ・レストラン。隣にV Marketplace |
| 立地 | ヨントヴィル中心部。フレンチ・ランドリーやブションまで徒歩圏 |
| ワイナリーへのアクセス | オーパスワン・ロバートモンダヴィまで車で約10分。イングルヌックまで約15分 |
| 予約 | 公式サイト(theestateyountville.com)ほか主要予約サイト |
よくある質問
Q. ワイナリーめぐりの拠点としてどうですか?
最適です。ヨントヴィルはナパヴァレーのほぼ中央にあり、オークヴィルやラザフォードの主要ワイナリーへ10〜15分で行けます。夜は徒歩でレストランに行けるので、ドライバーの飲酒問題も夜だけは解消します。
Q. 旧ヴィラッジオといまのホテル・ヴィラッジオは別のホテルですか?
同じ場所の同じホテルです。2018年の全面改装を機に「Hotel Villagio」へ名前を変え、隣のヴィンテージ・ハウスとあわせて「The Estate Yountville」というブランドになりました。この記事の写真は改装前の2017年のものです。
Q. 気球には乗れますか?
乗れます。隣のV Marketplaceを拠点にする気球ツアー(Napa Valley Aloft など)があり、早朝に出発してナパヴァレーを空からめぐります。乗らなくても、早朝の敷地から気球が飛ぶ景色を楽しめます。
Q. フレンチ・ランドリーの予約が取れなくても楽しめますか?
楽しめます。ヨントヴィルにはブション、ビストロ・ジャンティ、アド・ホックなど予約の取りやすい名店が徒歩圏にそろっています。ブションのベーカリーで朝のペストリーを買うだけでも、この町の実力がわかります。
まとめ — 宿と町をセットで選ぶ
ヴィラッジオの滞在を振り返って思うのは、「いい宿」と「いい町」はセットで選ぶものだ、ということです。トスカーナ風の庭と噴水、テラスの一杯、朝の気球。宿そのものも十分に素敵でしたが、夕方に歩いて美食の通りへ出られるヨントヴィルという立地が、その価値を倍にしていました。
ナパヴァレーは日帰りでも行けます。でも、この谷の本当の魅力は、朝と夜にあります。気球の飛ぶ朝の空気と、テラス席の夜のにぎわい。それを味わうために、ヨントヴィルに泊まるナパ旅を、ぜひ計画してみてください。
あわせて読みたい
- ナパ・ヴァレー ワイナリー訪問記|オーパスワン、ロバート・モンダヴィ、イングルヌック、スプリング・マウンテン、カモミ 5つの聖地をめぐる旅
- オーベルジュ・デュ・ソレイユ訪問記|ナパヴァレーを見渡すテラスでランチ——18年連続ミシュラン一つ星
- オーパスワン訪問記|ムートンとモンダヴィが生んだ最高峰を屋上テラスで味わう
- カモミ(Ca’ Momi)訪問記|ナパのダウンタウンで出会う本気のナポリピッツァとハートクラフトのワイン
TE travel 

