10月の小諸は、空が高い。浅間山の麓、千曲川を見下ろす丘の上に、収穫期のぶどう畑がひろがっていました。マンズワイン小諸ワイナリー。日本ワインの歴史を語るうえで欠かせない場所です。
わたしは2025年10月、ちょうど収穫の季節にここを訪れました。快晴の畑を歩き、ぶどう畑を見渡すテラスでプレミアムワイン「ソラリス」の飲み比べをいただく。千曲川ワインバレーの入口として、これ以上ない一日になりました。この記事では、その訪問記とマンズワインの物語を紹介します。
マンズワイン小諸ワイナリーとはどんな場所か

マンズワインは、しょうゆで知られるキッコーマングループのワイン会社です。1962年に山梨・勝沼で「勝沼洋酒株式会社」として生まれ、1964年にマンズワインと名を改めました。「食文化の国際交流」を理念とするキッコーマンが、発酵と醸造の技術を土台に日本のワインづくりへ乗り出したのがはじまりです。
千曲川流域に契約栽培地を拓いたのが1971年、その中心地である小諸にワイナリーを建てたのが1973年。以来半世紀、この土地でぶどうとワインをつくりつづけてきました。山梨の勝沼ワイナリーとあわせて2つのワイナリーをもち、小諸が担うのはプレミアムレンジ「ソラリス」の醸造です。
ソラリスはラテン語で「太陽の」という意味。「世界の銘醸に肩を並べるワインをつくる」という目標を掲げて2001年に誕生したシリーズで、国内外のコンクールで受賞を重ね、日本ワインの実力を世界に示してきた存在です。
大雪から生まれた「レインカット栽培」

畑を歩くと、ぶどうの列の上に白い屋根のようなカバーがかかっていることに気づきます。これが、マンズワインが開発した「レインカット栽培」。ぶどうの上部だけをビニールで覆い、雨が実に当たらないようにする仕組みです。
雨の多い日本では、ヨーロッパ系の高級品種の栽培はむずかしいと長くいわれてきました。転機は1988年10月、季節はずれの大雪が小諸を襲い、ぶどう棚の多くが倒壊したことです。マンズワインは復興にあたって、欧州系品種のレインカット垣根栽培に切り替える決断をしました。この決断が、のちのソラリスへの道をひらきます。災害からの復興が、日本ワインの品質を一段引き上げた。畑の白いカバーは、その歴史の証人です。
訪問記 — 畑を見渡すテラスでソラリスを飲み比べる

ワイナリーの中心はショップ棟です。1階には樽のディスプレイとともにマンズワインの各シリーズが並び、テイスティングの受付もこちら。窓の外にはぶどう畑と小諸の山並みがひろがります。

お目当ては、2階「けやきテラス」での有料テイスティングです。わたしがいただいたのは、Chikumagawaシリーズの飲み比べ3種セット。ブラン、ルージュ、浅間メルローの3杯が、畑を見渡すカウンターにトレーで運ばれてきます。
収穫期の畑を眺めながら、その畑のワインを飲み比べる。白はやわらかな果実味、ルージュは軽やかで、浅間メルローはしっかりとした骨格。同じ千曲川の土地から、これだけ表情の違うワインが生まれることに驚かされます。飲み比べセットは手ごろな価格なので、ワインにくわしくない方でも気軽に楽しめるはずです。


テイスティングメニューには、ソラリスの各銘柄もそろっていました。千曲川メルロ、やさしい味わいのユヴェンタ(4,400円)、信濃リースリング、甲州を10年以上熟成させた古酒(7,150円)、小諸ワイナリーに隣接する畑のぶどうでつくるル・シエル(7,150円)まで。ボトルで4,000円から7,000円台のプレミアムワインを、畑を眺めるカウンターでグラスから試せるのは、ワイナリーならではの贅沢です。
メニューをめくりながら気づくのは、産地の書き方の細かさです。長野県千曲川流域、山梨県旧勝沼町。銘柄ごとに、どの畑のぶどうかがきちんと記されています。畑への誇りがそのまま紙面に出ている。気に入った一本をショップで買って帰れば、旅の続きを自宅で楽しめます。
万酔園 — ワイナリーの中の日本庭園
小諸ワイナリーには、もうひとつ名物があります。約3,000坪の日本庭園「万酔園」です。園内には樹齢40年を超えるシャルドネの古樹や、32品種を植えた品種園、さらに樹齢100年を超える善光寺ぶどうの原木まであります。ワイン片手に日本庭園を散策できるワイナリーは、世界を見わたしてもそう多くありません。しょうゆの会社が営むワイナリーらしい、和と洋の同居です。
金・土・日・祝日にはワイナリーツアーも開催されていて、ふだんは非公開の地下セラーまで案内してもらえます。時間が合うなら、ツアーに合わせて訪問の予定を組むのがおすすめです。
訪問のベストシーズン
わたしが訪れたのは10月なかばの収穫期でした。畑には実をつけたぶどうが残り、空気は澄んで、浅間山方面の山並みまでくっきり見える。一年でいちばんワイナリーらしい風景に出会える季節だと思います。夏は畑の緑が濃く、テラスの風が心地いい季節。冬は営業時間が短くなり火・水曜が定休になるので、訪問前の確認だけ忘れずに。
小諸駅のそばには小諸城址の懐古園もあり、軽井沢からも車で30分ほど。信州観光の動線に、無理なく組み込める立地です。
千曲川ワインバレーの入口として
小諸・東御・上田など千曲川流域は、いま「千曲川ワインバレー」と呼ばれ、小さなワイナリーが次々に生まれている日本ワインの注目産地です。標高が高く、雨が少なく、昼と夜の寒暖差が大きい。ワイン用ぶどうにとって、日本ではめずらしいほど恵まれた条件がそろった土地です。
その可能性に半世紀前から気づいていたのが、マンズワインでした。1971年にこの流域へ栽培地を拓いた判断が、いまのワインバレーの原点のひとつになっています。まずは小諸ワイナリーでこの土地のワインの全体像に触れて、それから周辺の小さなワイナリーへ足を伸ばす。千曲川ワインバレーの旅は、ここからはじめるのがいちばんわかりやすいと思います。
東京からは北陸新幹線で佐久平まで約1時間半、そこから車で30分ほど。軽井沢からも近いので、避暑や観光と組み合わせやすい立地です。
施設情報・アクセス
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | マンズワイン小諸ワイナリー |
| 住所 | 長野県小諸市諸375 |
| 営業時間 | 4〜11月 9:30〜16:30(無休)/12〜3月 10:00〜16:00(火・水曜定休) |
| テイスティング | ショップ2階「けやきテラス」で有料テイスティング(ソラリス・Chikumagawaシリーズなど) |
| ワイナリーツアー | 金・土・日・祝日に開催(要予約) |
| アクセス(車) | 上信越自動車道 小諸ICから約5分 |
| アクセス(電車) | 小諸駅からタクシー約10分/北陸新幹線 佐久平駅からタクシー約30分 |
営業時間・定休日・テイスティング内容は変更になる場合があります。訪問前に公式サイトでご確認ください。
よくある質問
試飲はできますか?
できます。ショップ2階の「けやきテラス」で、ぶどう畑を眺めながら有料テイスティングが楽しめます。プレミアムワインのソラリスやChikumagawaシリーズの飲み比べセットがあります。
ワイナリーツアーはいつ開催されますか?
金・土・日・祝日に開催されています。予約が必要なので、公式サイトから事前に申し込んでください。
定休日はありますか?
4〜11月は無休、12〜3月は火・水曜が定休です(祝日は除く)。年末年始の休業もあるため、冬に訪れる場合は公式サイトで確認してください。
ソラリスとはどんなワインですか?
マンズワインのプレミアムレンジで、小諸ワイナリーで醸造されています。ラテン語で「太陽の」という意味をもち、レインカット栽培などの技術で育てた欧州系品種から、世界水準の日本ワインを目指して2001年に生まれました。
勝沼ワイナリーとの違いはなんですか?
マンズワインには山梨の勝沼ワイナリーと長野の小諸ワイナリーの2つがあります。勝沼は1960年代からつづく発祥の地、小諸はプレミアムレンジ「ソラリス」の醸造を担うワイナリーです。日本庭園「万酔園」があるのは小諸のほうです。
まとめ — 半世紀の技術が注がれた一杯
千曲川を見下ろすテラスで飲んだソラリスの一杯には、1973年からの半世紀が入っていました。大雪で倒れた棚、そこから生まれたレインカット栽培、世界の銘醸に並ぶという目標。日本ワインがここまで来た道のりを、一杯のグラスでまるごと味わえる場所です。畑と歴史と技術が、ひとつの丘にそろっています。
小諸ICから5分、軽井沢からもすぐ。信州への旅の途中に、ぜひ寄り道してみてください。収穫期の秋なら、白いレインカットの下でぶどうが実る風景まで見られます。帰りのトランクにソラリスを一本。信州の旅のお土産として、これほど格の高い一本はなかなかありません。
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