ファーストクラスの席に着いてしばらくすると、クルーがしずかに声をかけてくれます。「お飲み物はいかがなさいますか」。わたしの答えはいつも決まっています。シャンパンを、一杯。
ANA国際線ファーストクラスのシャンパンは、クリュッグ グランド・キュヴェです。地上では1本46,200円(税込・正規価格)。グラス1杯に換算すればおよそ8,000円という計算になります。それが高度1万メートルの空の上で、お願いするたびに注がれる。この記事では、羽田-ロンドン線のファーストクラスでクリュッグを味わってきたわたしが、このシャンパンの物語と、機内でのいちばんおいしい楽しみ方を紹介します。
ANAファーストクラスのシャンパンはクリュッグ グランド・キュヴェ
ANAは2024年、機内とラウンジで提供するワインを4年ぶりに大きく刷新しました。1,000を超える銘柄のなかから選ばれたのは、41銘柄。
2000年に世界最優秀ソムリエに輝いたオリヴィエ・プーシエ氏と、国内外のコンクールで活躍するソムリエの森覚氏のアドバイスを受け、ANAのワインスペシャリストによる試飲審査を経て決定されています。
そのなかで、ファーストクラスのシャンパンとして選ばれているのが、クリュッグ グランド・キュヴェです。
あわせてシャルル・エドシックのブラン・ド・ブランもラインナップされていますが、ファーストクラスの顔はやはりクリュッグ。長年にわたってANAファーストクラスの定番でありつづけている一本です(提供銘柄は時期により変更になる場合があります)。

ブリニ(小さなパンケーキ)にキャビア、そしてクリュッグ。ファーストクラスでしか出会えない組み合わせです。
クリュッグとはどんなシャンパンか
クリュッグは、1843年にジョゼフ・クリュッグがシャンパーニュ地方のランスで興したメゾンです。創業以来、妥協のない品質で知られ、愛好家のあいだでは「シャンパーニュの帝王」と呼ばれてきました。プレステージ・シャンパーニュと呼ばれる各メゾンの最高級ラインのなかでも、クリュッグは別格の存在として扱われています。
グランド・キュヴェは「マルチ・ヴィンテージ」という思想のシャンパン
グランド・キュヴェのおもしろさは、そのつくり方にあります。
ふつうのヴィンテージ・シャンパーニュが「その年に収穫されたブドウ」で仕込まれるのに対して、グランド・キュヴェは10年以上にわたる異なる収穫年のワインを120種類以上ブレンドし、さらに6年以上セラーで熟成させてから世に出されます。
目指しているのは、その年のベストではありません。
クリュッグが理想とする「グランド・キュヴェの味わい」を、毎年変わらず再現すること。天候に恵まれた年も、そうでない年も、リザーブワインの厚みで同じ理想の味に仕上げる。この思想があるからこそ、いつ飲んでも、どこで飲んでも、グランド・キュヴェはグランド・キュヴェの味がするのです。
この背景には、創業者ジョゼフ・クリュッグが残したひとつの信念があります。
「天候に左右されず、毎年最高のシャンパンを届ける」。
ふつうに考えれば不可能なこの理想を、世代を超えたブレンドという発想で実現してしまった。
グランド・キュヴェが「シャンパーニュの帝王」と呼ばれる理由は、値段の高さではなく、この思想の完成度にあるのだと思います。
エディション番号を見る楽しみ
グランド・キュヴェのボトルには「〇〇〇ème ÉDITION」という番号が記されています。これは創業から数えて何回目の仕込みかを示すもので、エディションごとにブレンドの中身が少しずつ違います。
わたしが機内でいただいたボトルは、171エディションでした。目の前にボトルが置かれたとき、わたしはいつも少し時間をかけてラベルを眺めます。深い色の瓶、流れるような筆記体のKRUGの文字、そしてエディションナンバー。それだけで、旅の幸福感が高まっていきます。
ちなみに、2026年7月現在、日本で流通している最新は173エディション(2017年のブドウを中心としたブレンド)です。機内で飲んだボトルの番号をメモしておくと、あとから地上で「あの日の一本」を探すことができます。これがエディション番号のいちばん楽しい使い方だと思います。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| メゾン | クリュッグ(1843年創業・フランス ランス) |
| タイプ | シャンパーニュ(マルチ・ヴィンテージ/ブリュット) |
| ブドウ品種 | ピノ・ノワール、ムニエ、シャルドネ |
| つくり方 | 10年以上・120種類以上のワインをブレンドし、6年以上熟成 |
| 日本での正規価格 | 46,200円(税込・173エディション・750ml) |
| ANAでの提供 | 国際線ファーストクラス |
空の上でクリュッグを味わうという体験
搭乗して、着替えて、シートに身体をあずける。そして最初の一杯をいただく。わたしにとって、このルーティンがファーストクラスの旅のはじまりです。

グラスに注がれたクリュッグは、淡い黄金色です。きめ細かい泡がゆっくりと立ち上り、鼻に近づけると、焼きたてのブリオッシュ、ヘーゼルナッツ、白い花の香りがひろがります。長い熟成からくる厚みのある香りなので、乾燥して味覚が鈍りがちな機内でも、しっかりと存在感が伝わってきます。
ハイライトは、やはりキャビアとの組み合わせです。ブリニにサワークリームとキャビアをのせて、クリュッグをひと口。キャビアの塩気とシャンパンの酸味・厚みが響き合う瞬間は、ファーストクラスでしか味わえない時間だと思います。

意外に思われるかもしれませんが、クリュッグは和食にもよく合います。機内の懐石料理と合わせても、出汁の旨味とけんかせず、寄り添ってくれる。これも熟成による味わいの深さのおかげでしょう。
そして地上ではためらってしまう「もう一杯」も、機内では遠慮はいりません。わたしも毎回、少しだけ申し訳ない気持ちになりながら「もう一杯、いただけますか」とお願いしてしまいます。クルーはいつも、うれしそうに注いでくれます。
地上価格で考えてみると、この体験のすごさがよくわかります。東京のホテルのバーやレストランでグランド・キュヴェをグラスで頼めば、1杯1万円を超えることもめずらしくありません。ボトルで開ければレストラン価格で7〜8万円。それが空の上では、ロンドンまでの14時間、ずっとそばにある。ファーストクラスの運賃には、じつはこういう「地上では成立しない贅沢」がいくつも折り込まれているのです。
機内でクリュッグを楽しむ小さなコツ
なんどか味わってきた経験から、わたしなりのコツを4つ挙げておきます。
- 最初の一杯は、食事の前にゆっくりと。香りの変化を楽しむために、少し時間をかけて飲むのがおすすめです
- キャビアが出てくるタイミングで、あらためて一杯。この組み合わせのために乗る価値があります
- ボトルのエディション番号を確認して、写真に残しておく。地上で同じエディションを探す楽しみができます
- ボトルを見たいときは、クルーにお願いすればグラスと一緒に持ってきてくれます。記念の一枚をぜひ
動画で見るANAファーストクラスとクリュッグ
羽田からロンドンへのANAファーストクラス THE Suiteの旅は、動画でも記録しています。クリュッグやキャビアが登場する機内の様子は、こちらでご覧ください。
ANAファーストクラスに乗るには
クリュッグを空の上で味わう方法は、大きく3つあります。有償航空券で乗る、マイルの特典航空券で乗る、そしてアップグレードで乗る。なかでも特典航空券は、ロンドン線などの長距離路線ほど1マイルの価値が高くなるので、マイルを貯めている方にはいちばん現実的な選択肢です。
シートやサービス全体のレビューは、ANA ファーストクラス THE Suite 搭乗記|羽田-ロンドン線 完全レビューで詳しく書いています。シートの仕様が知りたい方はANA THE Suite レビューもどうぞ。
よくある質問
ANAファーストクラスのシャンパンはなんですか?
クリュッグ グランド・キュヴェです。あわせてシャルル・エドシックのブラン・ド・ブランも提供されています。いずれも2024年のワインセレクション刷新で選ばれた銘柄です(提供銘柄は変更になる場合があります)。
クリュッグ グランド・キュヴェは地上で買うといくらですか?
日本の正規価格で46,200円(税込・750ml・173エディション)です。グラス1杯に換算すると、およそ8,000円になります。
機内でおかわりはできますか?
できます。クルーにお願いすれば、なんども注いでもらえます。遠慮する必要はありません。
ビジネスクラスでもクリュッグは飲めますか?
クリュッグの提供はファーストクラスのみです。ビジネスクラスでは別のシャンパンが提供されます。クリュッグを空の上で味わえることこそ、ファーストクラスの特権のひとつです。
まとめ — 一杯のシャンパンが、旅の記憶になる
ファーストクラスの魅力はシートの広さやサービスなど数えきれませんが、わたしにとって旅の記憶にいちばん深く残っているのは、じつはクリュッグの一杯だったりします。窓の外に雲海がひろがるなかで、180年の歴史をもつシャンパンをゆっくりと味わう。あの時間は、地上のどんなレストランでも再現できません。
次にANAファーストクラスに乗る機会があれば、ぜひボトルのエディション番号まで確かめてみてください。旅がひとつ、深くなります。
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