ANAビジネスクラスの白ワイン グリューナー・フェルトリーナー|ヴァッハウの段々畑と、忘れられない一杯

ワッハウのぶどう畑を望むテラスに置かれた白ワインのグラス

ANAのビジネスクラスで、ワインリストを開く。羽田を発って、機体がようやく水平飛行に移ったころ。キャビンアテンダントが差し出すメニューに、白ワインの銘柄が並ぶ。そのなかに「グリューナー・フェルトリーナー」という一行を見つけたとき、わたしはいつも少しだけ、うれしくなる。

聞き慣れない名前かもしれない。フランスでもイタリアでもない。オーストリアの白ワインだ。しかもただのオーストリアワインではなく、産地は「ヴァッハウ」。ドナウ川沿いの、段々畑が空へ向かってせり上がっていく、あの渓谷の名前がついている。

わたしにとって、このワインは世界でいちばん好きな白ワインだ。理由は味だけではない。一杯のなかに、ウィーンとヴァッハウで過ごした日々の記憶が、まるごと詰まっているからだ。今回は、ANAビジネスクラスで出会えるこの一本について、産地の思い出とともに書いておきたい。

ワッハウのぶどう畑を望むテラスに置かれた白ワインのグラス
ワッハウのぶどう畑を望むテラスで飲んだグリューナー・フェルトリーナー(写真:筆者撮影)

ANAビジネスクラスで出会うグリューナー・フェルトリーナー

ANAは国際線の機内・ラウンジで提供するワインを、世界最優秀ソムリエに輝いたオリヴィエ・プーシエ氏と、日本を代表するソムリエ森覚氏によるブラインドテイスティングで選んでいる。半年ちかくかけて、世界じゅうのワインから選び抜くという。その白ワインの一角に、ヴァッハウのグリューナー・フェルトリーナーが選ばれてきた。

わたしが機内で見かけたのは、次のような一本だった。

ワイン名 ドメーヌ・ヴァッハウ グリューナー・フェルトリーナー フェーダーシュピール テラッセン
原語表記 Domäne Wachau Grüner Veltliner Federspiel Terrassen
生産者 ドメーヌ・ヴァッハウ(Domäne Wachau)
産地 オーストリア/ワッハウ(世界遺産の渓谷)
ぶどう品種 グリューナー・フェルトリーナー 100%
タイプ 辛口・白
提供 ANA国際線ビジネスクラスの白ワイン

ドメーヌ・ヴァッハウは、ヴァッハウを代表するつくり手だ。もとは小さな栽培農家が集まった共同組合で、いまではオーストリア屈指の白ワイン生産者として知られている。その名を機内のメニューで見つけると、あの谷の光景がすぐによみがえってくる。

グリューナー・フェルトリーナーとは — オーストリアを代表する白ぶどう

グリューナー・フェルトリーナーは、オーストリアでもっとも多く栽培されている白ぶどうだ。国じゅうのぶどう畑の、およそ3分の1をこの品種が占めているといわれる。まさにオーストリアの顔ともいえる存在だ。

この品種のいちばんの個性は、白こしょうを思わせるぴりっとしたニュアンスにある。青りんご、ライム、洋梨のような果実の香りに、ほんのりスパイシーな刺激が重なる。飲み口はきりっと辛口で、酸がいきいきしている。重たいオークの樽香でごまかさない、素直でまっすぐな味わいだ。

シャルドネの華やかさとも、ソーヴィニヨン・ブランの草っぽさとも違う。どこか凛としていて、料理の邪魔をしない。和食に合う数少ない西洋ワインとしても、静かに評価が高まっている品種だ。

ヴァッハウという場所 — ドナウ川がつくった段々畑

ヴァッハウは、オーストリアの首都ウィーンから西へ小一時間ほど。ドナウ川がゆるやかに蛇行する、およそ30キロほどの渓谷だ。両岸の斜面には、石積みで支えられた段々畑がびっしりと連なっている。この景観そのものが世界遺産に登録されている。

ドナウ川沿いのワッハウの段々畑と、赤い屋根の川辺の村
ドナウ川の両岸にせり上がる段々畑。斜面のすみずみまでぶどうが植わっている(写真:筆者撮影)

わたしはこの谷を、川を下る観光船から眺めた。「ヴァッハウ号」という名の、昔ながらの外輪をもつような姿の船だ。デッキに立って風を受けながら、右に左にあらわれる段々畑と、赤い屋根の小さな村々を見ていた。デュルンシュタイン、シュピッツ、ヴァイセンキルヒェン。どの村も、教会の塔を中心に家々が身を寄せ合っている。

ドナウ川に停泊するワッハウ号の観光船
ドナウ川を行き来する観光船「ワッハウ号」。この谷の名前をそのまま冠している(写真:筆者撮影)

斜面が急なぶん、日当たりがいい。昼は暑いほど陽が照り、夜はぐっと冷える。この寒暖の差が、ぶどうにきりっとした酸と、はっきりした香りを与える。段々畑という不便きわまりない土地が、そのままワインの個性になっている。飲むたびに、あの谷の光と川風を思い出す。

フェーダーシュピールという格付け

ヴァッハウのワインには、この産地だけの独特な格付けがある。ぶどうの熟度、つまり収穫時の糖度によって、軽いものから順に三段階に分かれている。ラベルにその名前が書かれているので、選ぶときの目安になる。

格付け(呼び名) 性格
シュタインフェーダー
Steinfeder
もっとも軽やか。アルコールは控えめで、早めに飲みきる軽快なタイプ
フェーダーシュピール
Federspiel
中庸で、いちばん食事に寄りそう辛口。ANA機内のこの一本もここに入る
スマラクト
Smaragd
完熟したぶどうから。凝縮感があり、長い熟成にも耐える最上級

「フェーダーシュピール」という不思議な名前は、鷹狩りの道具に由来するといわれている。中世の貴族が楽しんだ鷹狩り。その鷹の優雅さが、このすっきりした辛口ワインの姿に重ねられている。名前を知ると、一杯がすこし違って見えてくる。

そして「テラッセン(Terrassen)」は、段々畑を意味する。いくつもの小さな区画から採れたぶどうを、ていねいに選んで仕込んだという印だ。まさにあの斜面の風景が、そのまま名前になっている。

ドメーヌ・ヴァッハウの畑で飲んだ、あの一杯

船を降りて、わたしはデュルンシュタインの近くのぶどう畑を歩いた。畑のなかに、ドメーヌ・ヴァッハウの看板が立っていた。「Grüner Veltliner」と書かれた、あの表示板だ。うしろには色づきはじめたぶどうの房と、川向こうの山並みが広がっていた。

ぶどう畑に立つドメーヌ・ヴァッハウ グリューナー・フェルトリーナーの表示板
デュルンシュタイン近くの畑に立つ、ドメーヌ・ヴァッハウ グリューナー・フェルトリーナーの表示板(写真:筆者撮影)

その日、畑を望むテラスの席で、この白ワインを一杯もらった。木のベンチとテーブル。目の前には収穫を待つぶどうの列。奥には谷を囲む山。よく冷えたグリューナー・フェルトリーナーをひとくち飲むと、青りんごの香りと白こしょうの刺激が、乾いた喉にすっと通っていった。

その味を、いまANAのビジネスクラスで、もう一度たどれる。機内でメニューにこの名前を見つけると、わたしはあのテラスに戻る。ワインというのは不思議なもので、味だけでなく、そのとき見た景色まで一緒に運んでくる。だからわたしにとって、この一本はただの白ワインではない。

味わいと、合わせたい料理

ドメーヌ・ヴァッハウのグリューナー・フェルトリーナー フェーダーシュピールは、色こそ淡い麦わら色だが、香りははっきりしている。青りんご、白桃、あんず、そこに白こしょうと、かすかなハーブの気配。口にふくむと、みずみずしい果実味と、きりっとした酸がいっぺんに立ち上がる。中程度のボディで、後味に軽やかなスパイスが残る。

合わせたい料理を、いくつか挙げておく。

料理 相性の理由
白身魚のグリルやカルパッチョ 酸が魚のうまみを引き立て、後味を軽くする
ウィンナーシュニッツェル ウィーン名物の仔牛のカツレツ。揚げ物の脂をきれいに流す
アスパラガス ワインが苦手とされる野菜。この品種は数少ない好相性の一つ
天ぷら・寿司・和食全般 出汁のうまみと調和し、白こしょうが薬味のように働く

アスパラガスと合う白ワインは、じつはそう多くない。グリューナー・フェルトリーナーは、その難しい相手をさらりと受けとめる。この一点だけでも、食卓で頼りになる存在だとわかる。

なぜこのワインが機内で映えるのか

高い高度では、気圧と乾燥のせいで、人の味覚と嗅覚はふだんより鈍くなる。甘みや塩味を感じにくくなり、繊細な香りは埋もれてしまう。機内で飲むワインが、地上とは少し違って感じられるのはこのためだ。

そういう環境でこそ、グリューナー・フェルトリーナーは強い。はっきりした酸と、白こしょうのスパイシーな刺激が、鈍った感覚のなかでもきちんと届く。重すぎないから、長いフライトのあいだ飲みつづけても疲れない。機内食の魚料理にも、和食のメニューにもよく寄りそう。ANAがこのワインを選ぶ理由が、飲むたびに腑に落ちる。

羽田からパリを経てウィーンへ。あるいはウィーンから羽田へ。ビジネスクラスのシートで、ワッハウの一杯を傾ける。行きなら、これから訪ねる谷への期待をふくらませながら。帰りなら、旅の余韻をたしかめながら。このワインは、目的地と自分とを、静かにつないでくれる。

よくある質問

グリューナー・フェルトリーナーはどんな味のワインですか?

青りんごやライム、洋梨のような果実の香りに、白こしょうを思わせるぴりっとしたスパイシーさが重なる辛口の白ワインです。酸がいきいきとして、飲み口はすっきり。重い樽香がなく、料理に寄りそう素直な味わいです。

「ワッハウ」とはどこですか?

オーストリアの首都ウィーンから西へ小一時間ほどの、ドナウ川沿いの渓谷です。石積みで支えられた段々畑が両岸に連なる景観が世界遺産に登録されています。オーストリア屈指の白ワイン産地として知られています。

「フェーダーシュピール」とは何ですか?

ヴァッハウ独自の格付けの一つで、ぶどうの熟度による三段階の真ん中にあたります。軽いシュタインフェーダー、中庸のフェーダーシュピール、最上級のスマラクトの順です。フェーダーシュピールは、いちばん食事に合わせやすい辛口タイプです。

どんな料理に合いますか?

白身魚のグリルやカルパッチョ、ウィーン名物のウィンナーシュニッツェル、アスパラガス料理などによく合います。出汁のうまみと調和するため、天ぷらや寿司などの和食全般とも好相性です。

家庭でも手に入りますか?

ドメーヌ・ヴァッハウのグリューナー・フェルトリーナーは、日本のワインショップやオンラインでも比較的手に入りやすい銘柄です。フェーダーシュピール テラッセンは、日常の食卓で楽しめる価格帯なので、機内で気に入ったら家で再会するのもおすすめです。

この記事を書いた人
TE travel 編集部
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